執事と夫妻
星空に、月明りにしては、やや明るい光の照らす世界。
浮かぶソファに深く腰掛け、青白く光る金属の筒を持った男が、横に腰かけた妻に声をかける。
「立ち合いに呼べず、すまなかったな。」
「構いませんわ、まさか子供部屋を壊すなんて考えもしませんもの。」
男は頷き、言葉を続ける。
「爺の話では、どうも強大な魂の前世帰りをしているようでな、生後翌日からリンクしたそうだ。」
「将来が楽しみですわね。ですが、そうなりますと前世を照合しておく必要がありますのね。」
「そうだな、流石に前世の領地に戻るなどと言い出しはしまいが、場合によっては対策を立てねばな。」
そう言うと男は、新たに筒を召喚し、妻に渡す。
それを受け取る妻からの返事は無い。対策について考えているようだ。
「なんにせよ、先ずは爺に色を調べさせている。まずはその結果を聞いてからだな。」
「そうですわね。こちら、有難う御座います。いただきますわね。」
魔力で作った道を通じて、筒から液体をくみ上げる。
「あら・・・こちら新たなフレーバーですか、爽快感が増しましたわね。」
「ああ、養殖星の第十三が軌道にのってな、気温を3度ほど下げてみたんだ。生産数は落ちたが、言う通り風味はより強くなってな。どうだ、広められそうか?」
「ええ、来週の茶会で出してみますわね。ニネ、受け取りを。」
ニネと呼ばれる妖精が答える。
「かしこまりました。」
「今度の茶会は寄子だけだったな、ならば香木も・・・」
小一時間会話を続けた後。
鈴の音が聞こえ、傍の空間が歪む。
「戻りましタ。」
男は尊大に頷き、傍に現れた執事に声をかける。
「うむ、ご苦労だった。それで、どうだった。」
「どうにモ、前世の影響が強いようですナ。統合が前世の人格よりに進んでいるよう見受けられまス。ですガ、どなたかとは違い素直デ、知識を得る事にも抵抗を持たぬ様子でス。」
「いちいち茶化すな。チルの様子は。」
「素直に従っているようでス。異常を検出した様子も御座いませんネ。」
ふむ、とつぶやき、受け取った映像情報を確認する。
随分素直な子だ。これなら悪い様にはならんか・・・?そう考え、肝心の情報を訪ねる。
「それでは爺、トーヤの『色』を教えてくれ。」
聞かれた執事は、少しだけ言いにくそうに。
「それガ・・・純白でしタ。」
そう答えた。
「・・・は?」
訳が分からず固まってしまったた男を横目に、隣に座った妻が声を出す。
「間違いありませんの?純白だなんて・・・4層に属す民以外にありえないのではなくて?」
「理解しがたい気持ちハ、私も解しますガ、事実は事実でス。」
「いやいやいや、まてまてまて、あの魔力量だぞ?大領主や、陞天した方が流天した以外で考えられるか?」
「念の為、流天者等調べましたガ、数千年遡っても純白なド・・・存在しませんヨ。」
おわかりのはずでス、と続けられた男は、それでも現実が受け止めきれずに、大きなため息を吐き、つぶやく。
「なら、あいつには何が乗り移ってるんだ・・・?」
2019/10/14:表記を変更