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Reset and One mores  作者: 赤井天狐
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第一話【りせっと】


 夢、だろうか。子供の頃の……懐かし匂いと風景。世界が広くて、全部が大きく見えた。

「はい、これあげる。すっごいレアなやつなんだぞー!」

「えぇー。気持ち悪いしいらないよ」

 少女の声にそう答える。ああ、やっぱり夢だ。俺はもう高校生で、こんな子供みたいな高い声じゃない。少女の姿はハッキリとは見えなかった。彼女が手渡してきたものも……よくわからない。これは……壺……いや、ストラップ……?

「なん——とを言うんだねチミは! これはゴールデン盛り——コリと言って————コリの中——————」

 少女の声が遠く、遠くに掻き消えていく。ああ、覚めるのか。いやしかし、せめてその謎の物体についてだけ説明して——


 パタリと夢は終わった。目の前には何も、真っ白な天井まで何も遮蔽物はない。右を向くと壁。左を向くと見慣れた散らかりっぱなしの自室。今日は……そうだ、始業式。高校二年生の大切なスタート。はて、何かビリビリ聞こえるがこれはなんだろう。もう一度右を向くとそこにはアラームで猛り狂う俺の携帯電話があった。時間は…………

「…………やっ‼︎」

 やっべ! すら発音できないほどやばい時間に目が覚めた。今から着替えて朝飯はもちろん抜いて、本気でチャリ漕げばギリ間に合うか? 考えながら体は勝手に飛び起きて…………何かを踏んで思い切り転んで顔面を強打した。クッソ誰だ部屋を散らかしたのは! 俺か! 片付けと八つ当たりを兼ねて俺は犯人を足下に探す。しかしそこには何も無い…………いや、足も……無い?

 いや、足はある。のだが、やたら寝間着の裾が伸びて……裾だけじゃない。見なくても袖は余っているし、割と新しい服なのに襟は年代物みたいにゆるゆるになっている。というか立ったらズボンが脱げた。

「なんだこれ……まだ夢か……?」

 ふと顔を上げた先、ゲーム機が繋がった小さなテレビの画面に写る自分の姿に俺は悲鳴をあげる。

 紹介が遅れてしまった。俺は水田みずた春樹はるき。今日をもって高校二年生となる青春真っ盛り男子高校生。趣味はゲームとサッカー。部活は……親友に騙される形で入ったのだがやめると言い出せない家庭科部。勉強は苦手、運動は好き。背は普通だけど小さくないしまだ伸びてる。彼女は……欲しい。そう、どこにでもいる量産型男子高校生。強いて言えば親友の一人が県で一番頭が良い……大学を目指して頑張っている。うん、量産型。

 そんな赤くない◯クの俺が、テレビに小さな女の子が映っていただけで。否、写っていたからこそ悲鳴をあげた。甲高い声。小さな手足。長い髪。何がどうした、これはやはり夢か? 幻だ! ようし寝よう。そして起きよう。きっとそろそろ現実の方でも時間がヤバイ。遅刻する夢を見るときは大体本当に遅刻しそうになっている。これは経験則だ。だから早く夢よ覚めてプリーズ!

「朝から煩いぞ兄……兄貴……?」

 騒ぎを聞きつけた弟が部屋に入ってきた。おお我が弟、一人だけの小憎たらしい弟よ! お願いだからお兄様を今すぐ叩き起こして——

「…………」

「お、おはよう」

 弟、真冬まさとはフリーズした。真冬だけに凍りついたってか! こりゃ一本取られた! なんて言っている場合か!

「真冬! お願いだ! 兄ちゃんを! 兄ちゃんを今すぐ起こしてくれ!」

「…………あー、なんか悪いもん食ったかな……」

 ノーッゥ! 行かないでくれマイブラザー! 今起きないと本当に遅刻しちゃうって!

「真冬ステイッ! 待っボッッ!」

 もう一度足を取られて転倒する。流石に短時間で二回は痛い。痛い? 災厄に見舞われた鼻がジンジンと熱を持つ。おや、これは……?

「春樹! 朝から煩いよ! 起きてるんなら早く支度し……」

「……お、おはよう!」

 硬直しているのはマイマザーこと夏恵なつえ夫人。マイファーザーこと秋博あきひろと合わせて立派に俺の両親をしている。ちなみにマイマザーはたった今機能不全を起こしてしまって再起動中かな? HAHAHA

「……春……あんた…………春樹……春えっ⁉︎ あの馬鹿息子どこに……えっっ?」

 心中お察しします。でももっと困惑してる人いるから。ここに。当の本人が一番意味わかってないから。

「春…………あんたその服……春樹の……」

「お、おはようお袋……」

 うーん、なんて長い夢だ。さ、そろそろネタバラシどうぞ。とは言ってもいられなくなった。痛いのだ。夢なら覚めろと頰をつねったわけではなく、偶発的に二回顔面を強打したに過ぎないのだが、いかんせん痛すぎる。夢とは思えないほどのリアリティ。いや、リアリティは全くないのだが。ともかく今これを夢と断じてはならない理由もあった。

「……お袋……学校まで送ってってくんない?」

 始業式に遅刻するのだけは困る。始業式つまりクラスの初顔合わせ。どんな理由や結果があれどこれに遅刻、あるいは欠席しようものならその一年クラスで孤立しかねない。だから今取るべきはもしこれが夢でなかった時の対策。うむ、我ながら全く意味分からん。

「は、はぁ。まぁ送ってくのはいいけど……あんた誰よ……」

「…………貴女の息子です」

 てってれー! ハルキはオフクロを仲間につけた?


 遅刻は免れた。流石自動車。オンボロ軽と言えどチャリより早い。しかしそこで浴びるのは好奇の…………いや、懐疑の目。完全に迷い込んだ誰かの妹だ。と言うか入学式じゃないんだから顔ぶれは変わらないんだし、そりゃバレますって。

「おー修二郎しゅうじろう。今年も一緒だなー」

「水田も一緒、か。また今年もお前らのお守りか……」

 近くで知っている声が聞こえる。声は、聞こえる。高校生デカイ! ちょっと! 全然何にも見えないんだけど!

「なんか騒がしくね? 犬でも迷い込んだ?」

「確かに。クラス発表だって言うのにみんなどこを見て……」

 親友と目があった。俺の自慢の親友、御影みかげ修二郎。ラグビーをやっているだけあって一際体がデカイ。彼が件の県で一番頭が良い……大学を志望している文武両道の男前。

 その隣にいる実に軽薄そうな物言いの男は俺の自慢じゃない方の親友。名前をさわ英二えいじと言うのだがこの男はヒドイ。勉強は出来ない、常識はない。間抜け面で意思が弱く、集中力もなければプライドもない。運動はまあ得意にしているがルールが守れないからスポーツが下手。文武を投げ散らかした能天気。

「お、かーわいー。ねーねーどっから来たの? 兄ちゃんか姉ちゃんの名前わかる?」

「…………俺だ……春樹だ……」

 これは無理だ、詰んだ。流石にもうどうしようもない。学ランこそ着て来たが今の俺が春樹であると証明する手段をそっくり家に忘れて来た。嘘、家に帰っても無いです。

「えーー! 春樹どーしたんだよお前⁉︎」

「「いや、そうはならんだろ」」

 思いがけず御影とハモった。一体どう言う思考回路……いや待て。もしかしてゴリ押せばいけるか……?

「春樹に妹なんていたか……? 従兄妹とか……近所の子か……」

「いやー、春樹だって! ほら、学ラン着てるし!」

 ホンモノだ! ホンモノのバカがいる‼︎ じゃない! 本物の春樹だ! 御影に俺はそう訴えた。沢は……うん。よく考えたらこいつに信じてもらっても周りがこいつを信じなかったわ。

「うーん、あのね。どういう関係なのか知らないけど今春樹にいちゃん近くにいないみたいなんだ。君一緒に来てはぐれたの? 一緒に探そ——」

「沢ッ! 一緒にスライム撒きながら町内一周しようぜ‼︎」

「春樹! 一体どうしたんだその姿は! まるで小学生じゃないか!」

 し、信じちゃったよ。え? もしかして俺ってスライム撒きながら町内走り回るようなイメージ、御影の中にあるの……?

「いやー、本当にどうしたんだよ春樹―。アレルギーか?」

 アレルギーで女になってたまるか! こいつの疑わなさはなんなんだ。

「実はかくかくしかじかで……」

「鹿? 鹿アレルギーか⁉︎」

「初めて聞くわ! おちおち奈良も行けねえな俺は!」

 アレルギーから離れろ! じゃない、俺がこいつから離れよう。何はともあれ御影に信じてもらえそうなのは僥倖だ。

「御影! 俺もよくわかんないんだけどなんかこうなってて……それで…………」

「よくわかんないけどって……いやいや、待て。この子が春樹なんてあるわけが……」

 もうひと押し…………もうひと押しだ!

「よくわかんないけどなんとかしてくれ御影!」

「なんとかできるわけないだろ! 春樹、まずはちゃんと何があったのか出来る範囲で説明しろ!」

「よっしゃ任せろ! えーと…………わからん!」

 分からん! が……てってれー! ハルキは伝説の戦士、ミカゲを仲間にした! でっでー! ハルキは伝説の遊び人、サワに取り憑かれた!

 一日目、始業式。波乱の幕開けで俺の高校二年生はスタートした。



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