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ハズレJob【英雄】で異世界無双〜ゲームでは初心者向けのJobが、異世界ではチートでした〜  作者: INGing
1章 VR→R、ゲームの中によく似た世界
9/22

夢の中へ、教えてエロい人

ブックマークありがとうございます。

 微睡んでいた意識が、徐々に覚醒していく。



「知らない天井だ……とか、言ってみたかったんだけどな」



 ヒデオが目を開いたとき、そこに天井は無かった。

 いや、それは正確な表現では無い――なにせ、天井を含む”全て”が無いのだから。

 先程まで横たわっていた筈のベットも、それどころか部屋すら地面や空さえ無くなっていた。


 ただ真っ白な空間、そこに立っているのか横になっているのか。

 静止しているのか、はたまた下へ落ちているのか。

 ヒデオは心許ない気持ちになり、周囲を見渡した。



「ここは、一体……ん? あれは――」



 数度キョロキョロと首を回した所、なにやら小さな”黒点”が見えた。

 普段ならば見落としてしまうような物だったが、この真っ白な空間の中では随分と異質に見える。


 特にあてがある訳でもなしにと、ヒデオはその黒点に向かい歩き出した。


 黒点へ近づくにつれ、徐々にその輪郭が顕になっていく。

 どうやらそれは、人? のようだった。

 その人らしき者の近くまで寄ると、ついにその全容が見て取れた。


 金色の髪が足首近くまで伸びている、金色の瞳を持った女性。

 身に纏っているものは白い布を巻きつけただけのような簡易的な物で有り、胸の下辺りで金色の帯で留められている。

 ぶっちゃけ、かなり扇情的な見た目だ――端的に言って、エロい。


 古代ギリシャの女帝コスみたいだな……とヒデオは思ったが、それ以上に目を惹かれてしまったのはその女性の胸だった。

 片方が小振りのスイカ程の大きさが有るそれは、ただの布切れによって支えるのは少々無理があるように見える。

 結果、今にも溢れ落ちてしまうんじゃないかと、ヒデオは目のやり場に困ってしまった。



「初めまして、原田 英雄さん」



 不意に女性に名前を呼ばれ、ヒデオは狼狽える。

 ジロジロと見ていた訳では無いが、少し疚しい気持ちを持ってしまったヒデオはドキリとしてしまったのだ。



「は、初めまして。貴女はいったい……」

「私はアリエル、輪廻転生を司る神……とでも申し上げましょうか」



 アリエルと名乗った女神は、そう言って淑やかにお辞儀をした。



「まずは英雄さん、貴方には謝罪を。貴方を、こちらの世界へと呼び寄せたのは私です。差し迫った事情があったとはいえ、了承も取らずに拉致してしまうような形になってしまいました」



 申し訳ありませんでした、と深々と頭を下げるアリエル。

 いきなりの謝罪を受けて、軽くパニックになるヒデオ。


 更にはアリエルが頭を戻した際に、胸が”ぷるん”と――いや”ばいん”と揺れた事を見て、余計に頭の中がぐちゃぐちゃになってしまう。



「えーっと、つまりどういう事? アリエルさん――いや、女神様がオレを呼んだってのはわかったけども」

「アリエルで結構ですよ。そうですね、では――まずは、事の始まりから説明いたしましょうか」



 そう言ってアリエルは、右手をすっと横に差し出す。

 すると、手のひらから”ぶおん”とプロジェクターで映してるような映像が飛び出す。



「まずこの世界は、英雄さんが居た世界とは”別物”だとは理解して頂けたかと思います」

「ええ、それはまぁ……」



 映し出されているのは、何処かの惑星の映像だ。

 英雄の居た”地球”とは大陸の形が異なっているが、地球と同じ環境の青い惑星だ。



「詳しく言うと恐らく人の脳では理解出来ない話になってしまいますので、簡単に申し上げると――地球がある宇宙とは別の宇宙の、地球とよく似た惑星だと思って下さい」



 その説明を聞いたヒデオは、よくSF作品とかに出てくる”第○宇宙”とかいった単語を思い出した。

 まぁ、大きな違いは無いだろうとアリエルに続きを促した。



「この惑星では、地球と同じ様に”人”が生活するのに適した惑星でした」

「適した?」



 微妙なニュアンスの言葉に、ヒデオは首を傾げる。



「はい。動植物等と共生し、天敵の居なかった”人”は繁栄の限りを尽くしてました」



 映し出された映像は――美しい森や果実を喰む動物達、それに地球以上に発達のした文明に住まう人の姿だ。



「しかし、ある時を境にその栄華も終わりを告げます」



 次に映し出されたのは、凶暴化した動物達――AWOでも見た事のある魔物達が、人を襲い建物を破壊している姿だった。



「どこからともなく現れた、悪意のある存在。その登場により、動植物へと影響を及ぼしました」



 魔物の出現の原因を、悪意のある存在――魔王のせいだと言い切るアリエル。



「人は次々と住処を追われ、今はたった1つの大陸にのみ生息しています」



 再び惑星の映像に戻り、ぐるんと回転して1つの大陸を映す。

 それは、AWOの世界地図と酷似していた。



「なす術なく徐々に数を減らしていく”人”を憂い、私は”人”に力を与えました」



 スキルやステータスの事だろうか? と、思ったらどうやら違うようで、それらはこの世界が出来た時から普遍的に存在していたようだ。



「私は転生を司る神だと言うのは、最初に説明させていただきました。その権能として、今までの人生を対価に……新しく、強い個体として生み直す事が出来るのです」



 つまり、AWOにおける”レベルリセット”だ。

 カンストまで上げたレベルを対価に、ステータスにプラスの補正を与えてくれる。



「それをもって魔王の討伐をなしてほしい、そう願っていたのですが……」



 顔をやや俯せるアリエル、察するところ上手くいかなかったのだろう。



「思うような戦果を上げられず、人々は私に対する信仰を失っていきました」



 AWOでも、転生の神殿はギルアスにあるだけだ。

 こちらにきて、その神殿さえ廃墟と化していたのだから――もう、この世界ではアリエルを信仰するものは居ないかもしれない。



「人々の信仰とは、私にとっての力です。この世界で力尽きる前に、一縷の望みを託して異世界へと干渉しました」



 その結果、ある一人の人間にこの世界の情報が流れた。

 その人は、まるで天啓を受けたかのようにAWOの制作を始めた。



「ゲームという特殊な媒体を通じてですが、何とか信仰を取り戻した私は――更に、魔王を討伐出来る個体をそこで探しました」



 プレイヤーがレベルリセットを繰り返す度に、僅かずつだがアリエルに力が戻っていった。

 更にはゲーム内と言う特殊な環境下で、疑似的な魔王が何度も討伐されている事に衝撃を受ける。


 それならば、この戦い慣れた者を。

 戻ってきた力を使い、こちらの世界へと引き込めないかと画策したようだ。



「そして――私は、100回もの転生を行い力をため続けている貴方……英雄さんに、目をつけました」



 ようやく一人を転生をさせるだけの力が溜まったアリエルは、そのリソースの全てヒデオに使ったようだ。



「本来、転生前に説明を行うべきでしたが。英雄さんを転生させるだけで、精一杯で……こうして夢の中にお邪魔させていただきました。どうか、魔王の討伐を引き受けて頂けませんか?」



 再度、深く頭を下げるアリエル。


 ヒデオはそんなことより、少し疑問に思う事を聞いてしまった。



「あ、え……? 転生、なのか? 転移ではなく?」



 下げていた頭を上げると、こてんと首を傾げるアリエル。



「はい、転生ですよ? 地球風に言うと地球での英雄さんの身体データをスキャンし、分解してこちらで再構築しました」

「うん? それって転生か?」



 一度体が分解された事を”死”と捉えるならば、こちらで再構築された事を”生まれ直した”と捉えても良いのかも知れない。

 しかし、ヒデオにとって地球の身体を元にしたのだったら別に転移といっても構わないんじゃないかと思う。



「転生を司る神ですので」

「OK、ならそう言う事にしておこう」



 なにやら拘りの様な物があるみたいだ。

 逆にそのへんはどうでも良いと思っているヒデオは、すぐさま折れた。



「所で……魔王の討伐を断ったとして、地球に戻る事は可能なのか?」

「……戻りたいのですか?」



 100回もレベルリセットを行い、1日あたりのAWOプレイ時間は誰よりも多い。

 アリエルからして、地球の世界には未練など無いものと思っていた。



「一応、こちらの世界に適応できる……むしろ、望んで来られる方を選んだつもりでしたが」

「いや、まぁ……確かにAWOは好きだけど、それが現実になるって言うのはちょっとな」



 地球で暮らすのに不満がある訳でも無いのだ、生粋のゲーマーではあるが別に現実逃避をしたい訳でもない。

 それにゲームでは、死んでも少しのペナルティを受けるだけでリスポーン出来るが……現実になったらそうも行くまい。



「それに、向こうで約束もしてるし」

「約束……ですか」



 ヒデオの言う約束とは【デザートウルフの討伐】を、フレンドのMariと行うという事だ。

 地球に戻って魔物討伐するからとは、どうにも救いようがない。



「約束についてはご安心下さい、こちらと地球では時間の流れが違ってますので」



 AWOが発売されて10年、その間この世界の時間は進んでいない。

 その揺り戻しのせいか、こちらで10年経つまでは地球の時間は止まってしまう。


 アリエルは、そう説明した。



「もちろん……それでも帰還を望まれる場合、地球へとお帰しする事も可能です。ですが、その場合……私の力を蓄える事に協力願えませんか?」



 およそ10年間、全プレイヤーのレベルリセットによってようやく転生させられたのはたった一人。

 ヒデオが断るのならば、次の人を呼ぶのに力を貸せと言うのだ。



「ちなみに、お幾ら程……?」

「最低でも200回、およそ20年程ですね」



 その言葉を聞いて、ヒデオは慄く。


 いくらAWOが好きだとはいえ、20年も経ったらヒデオは56歳だ。

 流石に今ほどAWOに打ち込めるとは思えない、更に――20年も経たない内にAWOの人気が下火になる可能性もある。

 そうなったらソロでしかレベリングを行わなくなって、効率がかなり下がる。

 プレイヤーの数が減れば、ヒデオが200回もレベルリセットをおこなった所で力が貯まりきるかも分からない。


 もっと言えば――20年後に相応しい人が居なくて、再度ヒデオが呼ばれる可能性だってある。



「うーん……あー、わかった。魔王討伐を引き受けるよ、何かそれが一番手っ取り早い」

「ありがとうございます!」



 頭をポリポリと掻きながら、魔王の討伐を引き受けるヒデオ。

 アリエルは、嬉しそうに身体を跳ねさせた。



「この世界は、英雄さんがしていたゲーム通りのシステムになっています。なので、それほど不自由はないかと」

「うん、そうだな。まぁ、ちょこちょこ違う事もあるけど」



 硬貨の種類や、魔物のドロップなど。


 所々の差異はあるが、そのあたりはそのうち覚えるだろうとヒデオは問題にしていない。



「始めに、支援として大銀貨を10枚【アイテム】へと入れておきました」



 うん、知ってる。


 と言うか、気付かなかったら宿にも泊まれないし……野宿なんかするつもりも無いかったから、こうやって会うことも出来なかっただろう。


 ヒデオはそんな今更な情報を聞いて、軽くため息を吐く。



「後は、力のほぼ全てを注ぎ込んで【加護】を付与しておきました。これはゲーム内における、転生ボーナスと同じものだと思って頂いて大丈夫です」



 ステータスを確認した時に、そう言えばそんな物もあったなぁ。

 等と、ぼんやりと思い出すヒデオ。



「最後に、英雄さんが得意とする【英雄】の特徴と同じく……成長速度にプラス補正がある【英雄の中の英雄】と言う称号を、作成付与いたしました」

「なるほど、犯人はあんたか」



 地味にショックを受けた【英雄の中の英雄】と言う称号、これを付与したのもアリエルだった。

 よくよく聞くと、AWOでは成長速度が早かった【英雄】Jobもこちらでは他と大して違いはないようで。

 それに合わせる為にわざわざ同じ効果の称号を、アリエルが作ってヒデオに付与した。



「いや、助かるんだけど……名前がさぁ」

「お気に召しませんか?」



 そう聞かれても、善意で付与して貰った物にわざわざ文句を言うのもどうかと思うヒデオ。

 小さくため息を吐いて、頭を横に振る。



「いや、ありがとう。それだけして貰えたら、充分だ」



 ヒデオの返事に、ニッコリと微笑むアリエル。



「それでは、よろしくお願いします。私は力を使い果たしてしまったので、しばらくお会い出来なくなります」



 そう言って、頭を下げる。



「次に会うのは、魔王の討伐が済んだ後です」

「わかった、出来るだけ頑張る」



 最後に挨拶を交わし、アリエルの姿がうっすらと希薄な物になっていく。



「あ、最後になりましたが……英雄さんの肉体を再構築する際、最高のパフォーマンスを発揮出来るように18歳相当まで若返らせて置きましたので」



 そう言って、完全に姿を消すアリエル。



「……そういうことは、もっと早く言えよ」



 ヒデオの嘆きは、誰もいない空間に虚しく響き渡った。

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