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ハズレJob【英雄】で異世界無双〜ゲームでは初心者向けのJobが、異世界ではチートでした〜  作者: INGing
1章 VR→R、ゲームの中によく似た世界
3/22

異世界転移、テンプレは走ってやってくる

「……あれ?」



 眩しい光に包まれたと思った瞬間、ヒデオは草原の真ん中で佇んでいた。



「……神殿は?……Job選択画面は?……と、いうかここって」



 レベルリセット――通称”転生”は、全て神殿内で行われるものである。

 光に包まれレベルがリセットされ、新たなJobを選択する画面がでてくるのだ。

 このように、いきなり草原に放り出されるようなものでは無い。


 かなりのイレギュラーに見舞われたヒデオだが、一応その草原には見覚えがあったので辺りを見渡して確認する。



「ここは、適正レベル1以上の草原エリア……?」



 AWO内にある『アインス王国』から隣接する3つのエリア、その中で最も適正レベルの低いエリアである。

 最近は来る事がなくなっていたが、数年前まで転生する度にレベリングしに通っていたのを思い出した。

 ちなみに、AWOを初めてプレイする時の初期ログイン位置だ。



「でもなんで……」



 場所が分かった所で原因はまだ不明だ、ヒデオは次に自分の装備品に違和感を覚えた。



「布の服に、鉄の短剣?」



 布鎧クロスアーマーに分類されるレア度1の【布の服】を身に纏い、短剣ダガーに分類されるレア度1の【鉄の短剣】が腰に佩かれていた。

 これらの装備はAWOにおける初期装備であり、どのJobでも装備出来る品物である。


 これらの現状を繋ぎ合わせ、ヒデオは1つの答えを導き出す。



「まさか、バグ? アバターデータが、破損したんじゃ無いだろうな?」



 AWOでは滅多に起こらない事だが、最初期の頃に2件程アバターデータが破損するバグが発生した。

 その時の運営の対応は迅速で、すぐにデータを復旧して貰えたので大きな問題にはならなかったみたいだが。

 古参であるヒデオはその事件を覚えていて、今回もそういった類のバグだと納得した。



「仕方ない、GMコール!! ……あれ? あ、そうか。チュートリアルが終わるまでは【システム】って使えないんだっけか」



 AWOにおける【Menu】のうち、初期から使えるのは【アイテム】と【ログアウト】の2つのみ。

 チュートリアルを進めて行くにつれ、徐々に【ステータス】や【スキル】などが開放されて行く。

 GMコールやブラックリスト登録などを含む【システム】は、チュートリアルが完全に終わってからの開放になる。



「どうしようか、ログアウトして報告してもいいんだけど……せっかくだし、久しぶりにチュートリアルを受けてみるか」



 およそ10年前に受けた、AWOで1度きりのチュートリアル。

 こんな事でもない限り、再度受ける事は出来ない。

 これも貴重な経験だと、ヒデオは前向きに楽しむ事にしたようだ。



「――――――――!!」

「お、始まったか」



 初期装備の鉄の短剣を抜き放ち、久しぶりに使う短剣ダガー種の振り心地を確かめていたヒデオ。

 数分後、チュートリアルが開始された事を示す声が鳴り響く。


 そして、それは女性の悲鳴であった。



「――だれかぁ!! たすけてぇ!!」



 悲鳴がした方へと視線をやると、遠くから土煙を上げて何かがやってくる。

 レザーアーマーを身に纏った冒険者風の女性と、その後ろから迫りくる、白い毛玉――レベル1の魔物【グラスラビット】だった。

 どのJobでスタートしても、レベル1の魔物に負ける事はあり得ない。

 彼女を助け、近くの街へと案内して貰うとこからチュートリアルは始まるのだ。


 最初のイベントとしてはベタだと、AWO内でも賛否が別れているが。

 異世界に転移したという設定のゲームなのだ、むしろテンプレとして喜ぶプレイヤーの方が断然多い。

 もちろん、ヒデオもその1人だ。



「誰か――あ、そこの人! お願い、助けて!」



 向こうもこちらに気付いたようで、僅かに街道から逸れた所にいるヒデオ目掛けて走り寄ってきた。



「今更だけど、これってNPCじゃなかったらMPKモンスター・プレイヤーキラーとして”通報”案件だよな」



 MPKとは、MMORPGではマナー違反とされている『擦り付け』行為である。

 基本的に自分の力量では倒せない魔物を擦り付けるので、高レベルの魔物であることが多い。

 悪意があると判断されるとアカウント停止の罰則がある為、AWOではNPCから以外には滅多に見られない現象である。



「――すいません!!」



 冒険者風の女性がヒデオの横を通り抜け、後ろへと回り込む。

 追って来ていたグラスラビットは、女性の代わりに現れた様に見えるヒデオに狙いを変更したようだ。

 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら近づくグラスラビット、その勢いのまま体当たりをしてきた。


 ヒデオは右手に持っていた鉄の短剣を、さほど力も込めずに下から上へと一閃。

 グラスラビットは2つの肉塊に別れ、ヒデオの後方へと飛んでいった。



「うわ! グロっ!」



 左右を通るグラスラビットの切断面が目に入り、そんな事を叫んでしまう。

 いくらリアルだと言っても、AWOはゲームだ――今まで切断面などは、真っ黒な影の様に見えていた。



「まさか、アップデート? そのタイミングで転生したからバグったのかな? それより内蔵描写とか、誰得な調整だよ」



 心構えが出来てない所にいきなりのグロ、耐性があまり無いヒデオは顔色を青褪めさせた。



「凄い、あんな小さな武器で一撃……あ、すいません。おかげで助かりました、ありがとうございます!」



 女性は、グラスラビットを一撃で倒したヒデオを少し呆けた様子で眺めていた。

 すぐさま気を取り直して礼を述べたのだが、ヒデオの顔色には気付かないようだ。



「いやぁ……グラスラビット程度、いつもだったら問題なく倒せるんだけど」



 そう言って、自分の腰元に視線をやる女性。

 そこには剣帯に吊るされた鞘だけが存在し、剣自体は何処にも見当たらない。



「さっき、いきなり剣が崩れちゃってさ。粗悪品だったのかな、あはは……」



 苦笑いを浮かべて、頬をポリポリと掻く女性。


 AWOの武器や防具などの【アイテム】全般には、損耗値という数値が設定されている。

 新品の状態で0%からスタートし、徐々に増えて100%になると粉々に”ロスト”する。

 それを避けるためには、職人系Jobのスキル【〇〇:修復】を使う必要がある。

 1つのアイテムに対し1日に1度という制限はあるが、こまめな手入れを行う事で長く使える様になるのだ。



「……いえ、たまたま近くに居ただけなのでお気になさらず」



 ようやく先程のショックから立ち直ったヒデオは、辛うじてそうな返事を返す。

 グラスラビットなど、彼女の様に武器がロストしない限り誰でも倒せるのだ。

 わざわざ礼を言われるまでも無い、とヒデオは考えている。



「見たところ、冒険者……という訳では無さそうね、装備が貧弱だし」



 女性はヒデオの全身を見渡して、そう判断したようだ。



「まぁ、そうですね。冒険者では無いです」

「そうなんだ、いい腕してるのに勿体無いね。ひょっとして田舎から出てきた所で、これから登録しに行くとか?」



 女性は「だったら、ギルドまで案内してあげる!」と、ヒデオの手を取り街へと歩きだした。

 ここで「冒険者になんかなりたく無い!」と言っても「まぁまぁ、せっかくだし」と、結局は冒険者登録をするはめになる。


 チュートリアルだからというのもあるが、1番簡単な身分証が冒険者証だからだろう。

 その証をもって、初めてAWOの住人となれるのだから。


 商業ギルドに加入する為に商売を始めるのにも、身分証が必要なのだ。

 何を始めるにも、まず冒険者になってからと言う事だろう。


 だからヒデオは何も言い返さず、ただ「いくらNPCとはいえ、身体接触ってこんな簡単に出来たっけ」など考えながら手を引かれていた。

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