近未来のゲーム事情、主人公の紹介
プロローグのプロローグ的な物です。
ただの説明文みたいな物なので、興味無い人はスルーして下さい。
次話から主人公が動き出します。
【アナザーワールド・オンライン】
通称AWOと呼ばれるそれは、所謂MMORPGゲームだ。
今から十年前にリリースされたAWOは、当時の最先端ハード機で没入型VR初のRPGゲームとなった。
その後も次々と新しいゲームが発売されるが、十年経った今なお多くのゲーマー達に愛されている。
その理由の一つとして、シンプルかつ自由度の高い世界観と言うのがある。
プレイヤーは『異世界に転移した』という設定のアバターを操作し、ゲーム内の世界を好きに遊ぶ事が出来るのだ。
一応『最終目標』として、魔王の討伐と言うのが設定されているが……別にそれを無視しても、全く問題は無い。
その『勇者』の使命を負った者は、NPCに居るのだから。
プレイヤーは『冒険者』となって、町のクエストなどだけをしていても良い。
逆に『勇者』の仲間となって、魔王を討伐しに行っても良い。
はたまた『職人』となって町の発展に貢献したり、勇者や冒険者の支援を行うのも良いだろう。
没入型の特徴として、五感もリアルに感じる事が出来ると言うのが有る。
目に映る建築物や動植物は、とてもプログラムとは思えない程に鮮明に見える。
街の中で耳をすませば、そこかしこから生活音が聞こえ。
地球には存在しない程に、濃厚な甘みを携えた果実に舌鼓を打ち。
露店で焼いている肉の匂いに、ついつい足が誘われてしまう。
当然、お互いの合意は必要だが……レーティングさえクリアすれば性行為すらも可能という、まさに『異世界』に存在するもう一人の自分を感じられる。
当然ここまで高性能な仮想現実が有れば、現実との乖離が起こりやすく……その対策として、VR機全般での一日ログイン時間は、合計最大八時間と規制されている。
脳波のパターンによるアカウント登録を行っている為、一人に付き一つまでしかアバターは所持出来ず……一日の大半をゲームに費やす、所謂『廃人』と呼ばれる者はAWOを含むVRゲーム内には存在しない。
三次元的なゲームを経験したゲーマー達の殆どは、今更二次元的なゲームに満足出来る筈もなく。
またVRの規制に伴い、インターネットなどの利用にも制限がかかり。
一部の者を除き、ゲームによる健康被害などは一時期に比べて格段に下がっていった。
どれだけゲームやネットに傾倒したくとも最大で八時間までしか不可能となれば、自然とそれ以外の時間の充足を求めるようになる。
ゲームやネットが出来ない時間を利用して、学業や仕事に励む……等と言うと、普通は逆だと指摘される。
しかし十年前と比べて世界全体の学力が向上し、雇用が増えた事による健全な売上向上に繋がった。
そうして経済が活性すると、現実世界でも新しい娯楽が増える。
自然とVRゲームだけにのめり込む事は無くなっていき、今や一日に四時間もゲームする者は『重度』のゲーマーと認識されている。
そんな中……発売から十年、毎日八時間近くログインしている男が一人。
その男とは、原田英雄三十五歳……独身。
彼は中学卒業と同時にアルバイトを始め、自ら学費を稼ぎながら高校へと通っていた。
別に両親が居ないだとか、家が貧乏だとかそういう事はなく……ただ、小さい頃から自立心が高かった。
高校を卒業し、中小ではあるがそれなりに待遇の良い会社で働き始める。
高校時代にアルバイトで稼いだ学費以外のお金、それと会社から貰った二年分の給料を株式投資に注ぎ込んだ。
生粋のゲーマーだった彼はVR開発関連の会社株を買い漁り、その二年後、没入型VRの発売後に売り抜けた。
かなり運が良かったと言うのもあるが、こうして二十二歳の時には一財産を築き上げる。
その後、会社を辞め……そのお金を元手に土地を複数購入、それら全てを借用地とし毎月百万を越える不労所得を得る事となった。
その内の半分も有れば独り身の彼には充分過ぎる収入だ、残り半分を親の口座へ振り込まれる様に設定し親孝行とする。
こうして、二十五歳の時に販売された『AWO』にのめり込む為の下地が整った。