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「そうですわね、せっかく王城まで来たのですもの。たくさん美味しいものを満喫して帰りますわ」
王城もリリアーナにすれば『こんな所』呼ばわりである。
モリーに言われた事もすっかり忘れ去り、思いは豪華なブッフェへと馳せている。
すっかりご機嫌な様子のリリアーナを目に、楽しそうに目を細めるイアンであった。
漸く車寄せへと馬車をつけ、イアンと共に馬車から降りたリリアーナ。
ここからは人目がある為、先程とは180度変わって何処からどう見ても完璧な御令嬢である。
会場へと向かう廊下も流石は王城と言ったところか。
床の絨毯はピンヒールで歩いても音が響かないし、所々に目にする綺麗な花達は、高価そうな花瓶に活けられている。
長い廊下を抜け会場の扉を潜ると、そこにはとても煌びやかな、絵本に出て来る様な光景が。
高い天井からはキラキラと光を放つシャンデリアが幾多も吊り下げられており、その下では色とりどりの衣装を身に纏う人で溢れていた。
「目に優しくない光景ですわね」
リリアーナが思わず呟くとイアンも
「今日は一段と目がチカチカするな」
と同意する。
いつもであればここで『見た目良し、将来有望』なイアンに御令嬢達が殺到するのであるが、今日はいつもの三割減と言ったところか。
社交辞令のご挨拶を適当に済ませ、未だ一部御令嬢達に捕まっているイアンを放置して、リリアーナは壁側へと避難する。
気合いの入ったお嬢様方は香りもいつも以上で、個々の香りは良くとも色々な香りが混ざると
「公害だわ」
と、なるのである。
会場内へは爵位の低い者から入って行くので、侯爵家や公爵家の御令嬢は待機する為の部屋で寛いでいる筈で、会場内にいるのはリリアーナと同じ伯爵家の御令嬢とその家族である。
御令嬢は勿論のこと、その親達も王子様の婚約者の座を得ようとギラギラしている。
この空間にいる御令嬢達は、謂わば『ライバル』にあたる訳で、皆表面上の顔には笑顔を貼り付けているが、他の御令嬢へのチェックの目が鋭いのは隠しきれていない。
リリアーナは当初の目的通り、『私は王子様を狙ってはおりません』アピールが効いたのか早々に鋭い視線から解放されるのであった。
それゆえ、今日は部外者よろしくブッフェで美味しい料理を頂きながら、高みの見物を楽しむつもりでいた。