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ノックの音がして、またもや返事を聞かずに次男のエイデンが
「姉様いる~?」
と入って来た。
室内にリリアーナを見つけると、これ以上ない程の笑顔で駆け寄り、
「わあ、姉様可愛い~」
と言ってギュウッと抱き締める。
そして髪型が崩れない様に気を付けながら、頭に頬をスリスリしながら「可愛い可愛い」と言い続けるのだ。
そこまで気を使うのならば、スリスリしなければいいだろうと思うのだが、彼の中にその選択肢はない。
やはり兄が兄なら、弟も弟といった所か。
見た目だけなら、姉と弟と言うより兄と妹に見え、一見微笑ましい光景ではあるが、結婚適齢期に入った姉にする行為ではない、筈?
だが、ここヴィリアーズ家ではいつもの光景であり、今更誰も気にしていないのである。
ソファへと場所を移し、お茶を淹れてもらう。
兄妹三人で会話を楽しんでいると、イアンの従者がそろそろ出掛ける時間であると告げた。
「じゃあ、行って来るわね」
とリリアーナが言えば、エイデンは少し不機嫌そうに
「僕が姉様のエスコートしたかったのに」
とイアンに愚痴る。
「悪いな、それじゃあ行ってくるよ」
「変な虫が付かない様にしっかり見張ってよね」
「了解」
と、この様に確りと 一家揃ってガードされている為、リリアーナには今の所虫一匹寄る隙もないのであるが。
適齢期の御令嬢にそれもどうなのか、と思う者は多々いても、口に出せる様な強者はいない。
番犬よろしくリリアーナと一緒にイアンは馬車に乗って王城へと向かった。
◇◇◇
招待状がある為スムーズに王城内へと入る事が出来たが、車寄せの辺りで混雑しており暫く馬車内で待たされる事になった。
「このまま帰ったらダメかしら?」
「リリ?私としてもその方が嬉しいけれど、今日ばかりは無理だな」
「わかってます。ちょっと言ってみただけだわ」
拗ねた様にそう言うと、窓から前に続く馬車の列を目にして、盛大な溜息を吐いた。
「希望者の御令嬢だけの参加にすればよろしいのに」
仕方ないとは思っているものの、まだまだ時間が掛かりそうな馬車の列に、つい恨みがましく口をついてしまうのだ。
そんなリリアーナに苦笑しながら、イアンは
「王宮主催のパーティーなら、リリの好きな美味しいものが沢山あるから、な」
と頭をポンポンするのだった。




