ダニエル・マーティン②
お久しぶりの翡翠です。
この度本作品『小動物系令嬢は氷の王子に溺愛される』が、大幅加筆しての書籍化となりました~!!
これも皆様のお陰です。
ありがとうございます(*^^*)
書籍化記念として、SSアップさせて頂きます。
ダニエル・マーティン(愛称ダニー)は、ザヴァンニ王国第一王子であるウィリアム王太子殿下の腹心の部下であり、幼馴染みであり、彼の良き理解者であると自負している。
趣味は筋肉を鍛えることであり、笑い上戸でサッパリとした性格に、とにかく面倒見のいい彼のあだ名は『おかん』と『ダニマッチョ』。
『おかん』はおかん並の面倒見のよさ故に、そして『ダニマッチョ』はウィリアム殿下の婚約者であるリリアーナ嬢が、ダニエルに笑われた腹いせに広めたあだ名である。
「ダニー」
ダニエルは呼び声のする方、つまりウィリアム殿下へと顔を向けた。
「見てくれ! リリアーナが忙しい合間を縫って、私の為に刺繍を刺してくれていたのだ!」
ご機嫌に、王家の紋章が刺繍された白いハンカチを、ドヤ顔で見せてくる。
……また始まった。
かつて『氷の王子様』と呼ばれた凜々しい(はずの)王子様は、今では見る影もないほどにデロデロに氷を溶かし、婚約者であるリリアーナ嬢を溺愛中である。
「はぁ、リリアーナが可愛すぎてツライ」
「……俺はそれを毎度毎度聞かされてツライわっ!」
エロテロリストことケヴィンがダニエルの肩をポンと叩きながら、ウンウンと頷いて部屋を出て行った。
それは「まあ、頑張れ」と言われているようにも「気持ちは分かるぞ」と言われているようにも取れるのだが。
ケヴィンのやつ。さり気なく逃げやがった。
俺だって、今すぐ部屋ここから出て行きたいわっ!
ヘタレなこの王子サマが、ようやく婚約者リリアーナと気持ちを交わすことが出来たのだ。
嬉しいのは理解出来る。浮かれるのも分かる。
だけどな? おれは、ひ・と・り・身、なんだが?
寂しい独り身の俺に、毎日毎日(長いので割愛)惚気てんじゃないっての!
ダニエルは大きな溜息を一つついて気持ちを切り替える。
「あ~。とりあえず、その書類の山を何とかしようか」
近衛騎士団副団長であったウィリアム殿下は、立太子と共にその座を退く予定であり、ダニエルもウィリアム殿下の補佐として一緒に退団する予定であったのだが。
リリアーナ嬢の「ウィリアム様の軍服姿はとても素敵ですわね」という鶴の一声で退団することなく継続中である。
王太子としての仕事もあるため、大幅に補佐の人数を増員させることになったが、体を動かせる騎士団の仕事が続けられることに、言葉には出さないがリリアーナ嬢には感謝している。
まあ、増員の中に先ほど逃げ出したケヴィンも含まれていたのだが。
……さっさと書類仕事を終わらせて、訓練場に行ってしまおう。
「お前、さっさと逃げ出しやがって」
訓練場にいたケヴィンを見つけ、恨みがましい目でそう言えば、
「いや、他人の惚気話聞く趣味ないんで」
と真面目に返されてしまった。
「俺だってそんな趣味持ってねえわっ!」
「あれ? 違ったか?」
ケヴィンの返答にがっくりと肩を落とす。
「俺も可愛い彼女が欲しい……」
遠くを見つめる目でそう言えば、ケヴィンに可哀想な者を見る目で「あ~、誰か紹介するか?」と言われ、何となくもの悲しい気持ちになる。
「いや、いい。お前の紹介はまともな女の子がいなそうだしな」
「何だよ、それ。みんな後腐れなく付き合える良い子たちなのに」
「後腐れなくって、お別れ前提じゃねえかっ! 俺は、長く付き合える、結婚前提の彼女が欲しいんだよっ!」
意外そうな表情を浮かべた後に、ニヤニヤとした笑顔を浮かべ「ふうん。ま、頑張って」と手をひらひらさせて、ケヴィンはどこかに行ってしまった。
ダニエルは大きく息を吐きつつ、その場にいた団員達と指導の名目で次々と対戦していく。彼が指導する時に必ずいう言葉は「頭で考える前に動け」である。
……実は『ダニマッチョ』の前のあだ名は『脳筋』であった。
どちらも意味合いはあまり変わらない気がするが、少しだけ可愛くなった……かもしれない。
とはいえ、『おかん』も『ダニマッチョ』も女受けしそうにないあだ名なのだが。
彼に可愛い彼女が出来るのかは……神のみぞ知る。
改めまして、5月15日にビーズログ文庫様より『小動物系令嬢は氷の王子に溺愛される』が発売されます。
よろしくお願い致しますm(_ _)m




