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少しだけ休んだ後、リリアーナを伴って挨拶まわりだ。
ダンスよりも何よりも、これが一番大変だったりするのだが。
中にはまだ、さり気無く自分の娘を薦めてくる様な馬鹿もいたりした。
大抵は黙って睨んでやると、娘の方から泣きそうになって、何かしら理由を付けて逃げて行ったが、知らん。
私の気分を害した事に気付き、慌ててリリアーナを褒める様な素振りもまた、私の苛立ちに拍車を掛けるだけだというのに。
くだらん輩の相手をするだけ時間の無駄と、リリアーナを連れて他の貴族達と挨拶を交わしていく。
先程とは反対に、必要以上にリリアーナを持ち上げてくる輩もいた。
そういった者も信用は出来ない輩だ。
短い時間に数々の貴族達と言葉を交わしながら、私の頭の中には『信用に値する者』『信用出来ない者』『まだどちらとも言えない者』のリストが出来上がっていく。
今のところ『信用出来ない者』と『まだどちらとも言えない者』が多いがな。
これは裏を返せば私はまだ、彼らの信用を得られてはいない事を表している。
これから自分の味方である『信用に値する者』を増やしていかねばならない。
大体の挨拶まわりが終わり、忙しくホール内を動き回る使用人に飲み物を頼む。
パーティーが始まってから、何も口にしていない。
リリアーナとグラスをカチンと合わせてから「お疲れ様」と喉を潤した。
大した話もしていないのだが、喉がカラカラになっている。
リリアーナも喉が渇いていたのであろう。
美味しそうにグラスの飲み物をチビチビと飲み、あっという間にグラスは空になった。
「お代わりはいるか?」と聞けば、せっかく料理の取り置きをしてもらっているのに、飲み物でお腹一杯にしては勿体無いと言われた。
笑いながら「了解」と頭を撫でる。
私主催の初めてのパーティーは無事に終わり、リリアーナと料理の取り置きをしてある部屋へと向かう。
苦手なパーティーに疲れはしたが、リリアーナがいてくれたお陰で少しだけ楽しむ事も出来たと思う。
リリアーナは数々の料理とデザートを前にとても嬉しそうな顔をし、それを見た私も、漸く落ち着いて重圧から解放された事を実感する。
改めて、私の横に居るのが彼女で良かったと思ったのだった。




