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昔からパーティーというものは苦手だ。
出来る限り参加しない方向でやって来たが、どうしても出なければいけないものだけ参加する様にしていた。
明らかに香水をつけ過ぎて公害レベルになっている女とダンスを踊るなど、どんな嫌がらせかと思うのだが。
一人踊ると次々と湧いて出てくる女達と踊らねばならなくなる為、もうずっと全て断り続けている。
パーティーなどこの世から無くなってしまえと、ちょっと本気で思う程に苦手だ。
ところがだ。
「お前もそろそろ次期国王として、王族と上流貴族達との(公的な)社交の場であるパーティーを主催せねばな」
国王が唐突にそう言い出したのだ。
王族として上流貴族との繋がりは大切だという事も理解している。
仕方なく諸々の手配はダニエルに押し付……任せた。
パーティーには婚約者としてリリアーナも参加するが、彼女のドレスや宝石など一式は、ダニエルではなく私が手配した。
もうずっとダンスなど踊ってはいなかった為、ダニエルに強制的にダンスの練習をさせられた。
相手はリリアーナだと思えば、乗り気ではなくとも、少なくとも彼女をリード出来る程には練習を重ねた。
パーティー当日。
初めて公の場にリリアーナと参加するという事もあり、リリアーナはかなり注目を集めていた。
リリアーナとホール中央まで進み、踊り出す。
「ウィリアム様?あの、お願いがあるのですが」
身長差がある為、見上げる様にして踊りながら恥ずかしそうにリリアーナが囁いてくる。
「ブッフェのお料理とデザートを少し、取り置きしておいて頂くのはダメですか?」
リリアーナの安定の食欲に、思わず笑みをこぼしながら
「ダニーに別室に準備させる。パーティーが終わったら、一緒に食べよう」
と言うと、嬉しそうに笑うリリアーナ。
結局リリアーナとは三曲続けて踊ったのだが、ダンスを苦痛だと思わずにいられたのは初めての事だった。
その後、疲れただろうからと少し休憩しようとホールの端に向かうと、リリアーナを押しのける様に香水の臭いをプンプンさせた御令嬢達が押し寄せた。
バランスを崩して倒れそうになったリリアーナの手を掴んで抱きとめ、
「私はリリアーナ以外の者とは踊るつもりはない」
思った以上に低い声が出た。
先程まで機嫌良くいたのに。
どうやら私はかなり苛立っている様だ。
御令嬢達は気まずそうにその場から一人二人と去っていく。
「誰よ、氷の王子様が優しくなったなんて言ってたのは!」
そう呟く御令嬢の声は、楽団の奏でる音楽に上書きされ、誰の耳にも届かなかった。




