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先程使用人が「国王様がお呼びです」と呼びに来た為に、皆が待つ応接室へと彼女と一緒に向かっている。
この彼女はかなり小さく、並ぶと私の胸の辺りにつむじが来る高さしか無い。
それ故歩くペースはかなり遅く、普段であれば面倒で置いていく所だが、何やら小さなペットが一生懸命主人に着いて歩く様で、不思議と自分の歩くペースを落とす事に不満を感じない。
それどころか、彼女はダニエルに可笑しなあだ名を付けてみたり『鼻毛が3倍速で伸びる』という地味に嫌な呪いを掛けると言ってみたり。
……こんなに笑ったのはいつぶりだろうか。
普段の倍以上の時間を掛けて応接室に到着した筈だが、何故だかあっという間に到着してしまった様に感じる。
部屋の中には嬉しそうな顔をした国王と王妃、そして困惑顔の少女の両親。
私達が席に着くと国王の口からこの婚約に対する意思確認の言葉が出て来た。
「どうだ?お主の婚約の相手はこのリリアーナ嬢が良いのか、それとも他の御令嬢に……」
「私の婚約者には彼女を望みます」
思わず被せる様に言っていた。
この短時間の間に、私は彼女の事を結構気に入っていたから、今更他の女を選ぶなどという面倒臭い事は考えられないと思ったからだ。
今にして思えば、心の何処かで、彼女を逃がしてはいけないと理解していたのだろう。
婚約が内定すると直ぐに、リリアーナの王太子妃教育が始められた。
彼女は学園の授業が終わってから王城へと登城し、みっちり教育を受け、夕食を食べてから家へと戻る忙しい生活が続いている。
げっそりした顔で食堂へと入って来るのだが、目の前の美味しそうな料理に満面の笑みを浮かべる姿に、国王や王妃だけでなく、オースティンやホセまでが癒されているらしい。
何となく面白く無い。
幸せそうにデザートを頬張る姿に、私の分のデザートも食べる様に言うと、とても可愛らしい笑顔で「ありがとう」なんて言うものだから、ほら、リリアーナの前に他の皆の分のデザートまで並んでしまったではないか。
こんな事でやはり面白くないと思う私は狭量なのだろうか……。




