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「おぉい、ウィル。例の件なんだが……」



いつもの様にズカズカと部屋へと入って来るのは、私の部下であり幼馴染みのダニエル。愛称ダニー。

筋肉を鍛える事が趣味の男だ。

彼女の存在に気付いたダニエルは気まずそうに部屋を出ようとしたので、引き止める。



「とりあえずそっちに……」



机を指差してから、彼女をチラッと見やりそこで待つ様に伝える。

ダニエルから受け取った書類は急ぎの案件では無かったが。

とりあえず指示を出し、サインをしてから彼に戻す時にふと、大人しく待っているだろう彼女の方に目線がいったのだが。



彼女は大人しく待っているどころか、何の遠慮もなく、満面の笑みを浮かべて次々とテーブルの上に並べられた菓子を口にしていく。

唖然として見ていると、ダニエルもその姿に気が付いた様で、肩を震わせて笑っている。

ぎこちなく口いっぱいに菓子を頬張ったままの顔をこちらに向け、イタズラの見つかった子供の様にバツの悪そうな顔をし。

そしてカップの茶を飲み干しテーブルに戻すと、突然衣服の乱れなどをチェックし、背筋をピンと伸ばしてから



「そちらのお話はもう終わりましたの?」



と、御令嬢らしく微笑みを浮かべながらのんびりとした口調で話し出したのだ。

多分誤魔化そうとしたのだろうが、そんな事で誤魔化せる筈もなく、堪らず声をあげて笑い出すダニエル。

その目には涙まで浮かんでいる。

あまりにも斜め上を行く誤魔化し方に、思わず私まで声をたてて笑っていた。



ダニエルの用事も終わり、机から彼女のいるソファーへと場所を移す。

先程口いっぱいに菓子を頬張る姿に『昔飼っていたリスに似ていたな』などと思い出し、テーブルの上に残っている菓子を手に取り、彼女の口元へ持っていけば。

反射的に口を開けてパクついた後、『しまった』という顔をしながらも、口はモゴモゴとしっかり動いているのだ。



その姿に嫌悪感はない。

寧ろ可愛らしいとさえ思っている自分がいる事に驚いた。

女は煩わしく、可愛らしいなどと思ったこと等一度も無かったし、今後も無いと思っていたのだが。

どうやら横に座る彼女だけは違うらしい。

そんな自分の感情を不思議に思いながらも、また一つ菓子を手に取り、再度彼女の口元へと持っていく。



今度はなかなか口を開こうとしない彼女。

こうなると無理にでも食べさせてやろうという気になるものだろう?

彼女が我慢出来ずに口を開くのが先か、私が諦めて手を下ろすのが先か。

まあ、負ける気はしないが。



結果はやはり彼女が根負けし、私の勝利である。

向かい側に座り、笑い過ぎて痙攣を起こしているダニエルは放置だ。

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