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ヴィリアーズ伯爵家令嬢リリアーナ(18)と、この国の王太子であるウィリアム殿下(25)の結婚を祝い、数日前より王都はとても賑わっていた。
王太子殿下とリリアーナの婚約が決まったのが1年と少し前。
ウィリアム殿下は少しでも早い結婚を望んでいたのだが、リリアーナはちゃんと学園を卒業する事を望んでいた為、彼女の希望通りに学園卒業に合わせて結婚式が行われる様手配を進めたのだ。
1日目は前夜祭。2日目の今日、大聖堂にて宗教婚、公式晩餐会が予定されている。
宗教婚と公式晩餐会の間には御成婚パレードが行われるのだが、まだ早い時間にも関わらず二人の門出をひと目見ようと、沿道は人・人・人で埋め尽くされていた。
その頃大聖堂の花嫁控室では。
「リリアーナ、いつでも帰ってきて良いんだぞ?
何なら結婚を辞めたって……ウグゥゥゥ」
ヴィリアーズ家当主であり、リリアーナの父親であるオリバーは大泣きである。
流石にこれにはシスコン兄弟も呆れつつも、苦笑いしながら見ている。
リリアーナはそんな兄弟二人をジッと見つめて「止めて下さいましっ!」と念を送るも、スイッと目を逸らされてしまった。何故だっ‼︎
そして母親のジアンナは、そんな様子を後方から眺めながらハンカチでそっと目元を拭っている。
……誰も助けがいない。
オリバーはリリアーナの両手を握りしめている為、教会関係者の方が呼びに来るまで、リリアーナはずっと動けずに立ちんぼ状態のままでいるしかなかったのだが。
「……ドレスが重い」
思わず呟いてしまう程に、豪華なドレスは重かった。
溜息が出る程に美しいレースをふんだんに使ったハイネックのドレスは。
バストとウエストはピッタリとフィットし、腰の辺りから広がるマーメイドラインで、トレーン部分は3m程の長さがある。
所々に縫い付けられた真珠が光によってピンクに見え、ドレスは可愛らしいリリアーナに良く似合っていた。
◇◇◇
お母様とイアン兄様とエイデンの3人は、既に大聖堂の方へと移動してしまっている。
オリバーにエスコートされ、リリアーナはゆっくりと挙式の行われる大聖堂へと向かっているところだ。
先程まで家族もドン引きする程に大泣きしていたオリバー。
やっと泣き止んだというより、無理やり涙を止めた彼の目は赤い。
徐々に近付く大聖堂への扉。
別に今生の別れである訳でもないのに、こう胸に込み上げて来るのは何故だろう。
扉の前で立ち止まる。
リリアーナは本当は控室で家族皆にお礼を伝えるつもりだったのだが、この父親の大号泣のお陰でまだ何も伝えられていない。
色々伝えたい気持ちはあったのだが、時間も無いので結局この一言だけを伝えた。
「お父様、ありがとう。私は貴方の娘で良かった」
せっかく止めた涙がまた溢れそうになるのをグッと堪えるオリバー。
そして時間になり、大聖堂への扉が開かれた。
一歩一歩踏みしめる様に、大勢の祝福に訪れてくれた方々の見守る中、リリアーナの夫となるウィリアム王太子殿下の元へと向かう。
長い長いバージンロードを父と歩き、そして漸くウィリアム殿下の元へと到着した。
リリアーナの腕はオリバーからウィリアムへと移り、オリバーは重さの無くなった腕に寂しさを感じつつ、ジアンナの元へと移動するのだった。
「夫たる者よ。汝、健やかなる時も、病める時も、常にこの者を愛し、慈しみ、守り、助け、この世より召されるまで固く節操を保つ事を誓いますか」
「誓います」
「妻たる者よ。汝、健やかなる時も、病める時も、常にこの者に従い、共に歩み、助け、固く節操を保つ事を誓いますか」
「……誓います」
「結婚の絆によってかたく結ばれたこのお二人に、神の祝福を」
神父の言葉に大聖堂に集った全ての人々から祝福の拍手が沸き起こる。
氷の王子様と言われたウィリアム王太子殿下の顔には満面の笑みが浮かべられており、今後彼を氷の王子様と呼ぶ者はいないだろう。
隣に寄り添う可愛らしい花嫁であるリリアーナも、幸せそうな笑顔を浮かべている。
ここにいる皆に祝福されながら、二人はパレードの為に用意された6頭立のオープンタイプの馬車へと乗り込むべく向かった。
ゆっくりと動き出す馬車に、沿道の人々は歓喜の声を上げ手を振っている。
少し恥ずかしくはあるけれど、自分達のお祝いの為にわざわざ駆けつけてくれた人々である。
リリアーナは一生懸命笑顔で手を振り続けた。
隣に座るウィリアムはそんなリリアーナを見て、嬉しそうにヒョイと抱き上げると、横向きに膝の上に乗せ、頰にキスをした。
それを見た沿道の人々は更に大歓声を上げ、後日人々の間では王太子殿下は王太子妃殿下を溺愛されていると専らの噂であった。
「人前ではやめてって言ってるじゃないですか(泣)」
「リリが可愛いのがいけない」
過度に愛されるリリアーナである。




