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「リリアーナでなければ駄目なんだ」
この台詞は物凄い破壊力ですわね。
後ろから抱き締められて、耳元でこんな台詞を言われて、落ちない方っておりますの?
しかも相手はあの、女性に冷たいとされる『氷の王子様』ですもの。
こんな特別扱いされて、嬉しくない訳がない。
けれども素直にそれを認めるのも、簡単に許してしまうのもやっぱり悔しいので、直ぐには信用なんてしてあげないんだから。
「……本当に私だけなんですの?他の方にも言っていたりしませんの?」
「リリアーナだけだ。他には絶対に言ったりしない」
「私の目を見て、同じ事が言えますか?」
「言える」
ウィリアムは抱き締めている腕を解き、ゆっくりとリリアーナの前に立つ。
そして徐に跪き、リリアーナの手を取り
「私にはリリアーナだけだ。リリアーナでなければ駄目なんだ。
これからもずっと、私の隣で笑っていて欲しい」
リリアーナの手の甲にキスを落とした。
ちょっと拗ねて色々ごねていただけだったのに、これはまさかのプロポーズ⁈
正式な婚約は交わしていたけれど、彼の口からハッキリとした言葉をもらったのは、初めての事だった。
「ねえ、リリアーナ?君は私を選んではくれないのかい?」
驚きすぎて返事を返していないリリアーナに、今度はウィリアムが拗ねた様に聞いてくる。
答えなど決まってはいるが、つい先程拗ねて直ぐには認めるものかと思っていたリリアーナの目は、泳ぎまくっている。
「リリ?」
ああ、もう。
認めればいいのでしょう?
直ぐに認めてしまうのはちょっと悔しいですけれど、きっと目の前の彼は喜んでくれるでしょうから。
滅多に笑わない彼が私の言葉で喜んで笑ってくれるのなら、いくらでも返事しますわ。
「あなたの隣は私だけの特別席ですわ。他の方が座るのは認めませんが、よろしくて?」
若干素直じゃないかもしれませんけれど、これが私ですもの。
ウィリアムは嬉しそうに微笑むと
「構わない」
と言って、リリアーナを抱き締めた。
リリアーナはそっと、ウィリアムの背中に手を回すのだった。




