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「リリ、済まなかった。もう二度と言わないから機嫌を直して貰えないか……?」
いつもの様にリリアーナから貰った髪紐で後ろで一つに結ばれたサラサラストレートの髪。
レゲエの様な頭は昨日1日の約束だったのだから、仕方ない。
『氷の王子様』と言われた姿はすっかりと影を潜め(リリアーナの前限定で)、目の前の小さな少女に必死で謝罪する大の大人。
少し前までは考えられなかった姿である。
「……信じられませんわ」
リリアーナはソファーの端っこに座り、頰を膨らませてプイッとウィリアムがいるのと反対側の方へと顔を背けた。
「どうしたら信じてもらえる?」
リリアーナは本当にウィリアムを信じていない訳では無かったが、自分の恥ずかしい話を他人に話されてしまった事が堪らなく嫌だった。
本当なら、ウィリアムにさえも知られたく無かった事なのだ。
彼にとってダニエルは大切な幼馴染みで、誰よりも信用している事は理解している。
リリアーナにとってのモリーの様な立場なのだろう。
ダニエルが他で漏らす事は無いと、つい話してしまったのかもしれないが。
けれど、やっぱり嫌なものは嫌なのだ。
お仕置きにレゲエの様な頭にしたり、地味に嫌な呪い(お祈り)をしてみても、スッキリしない。
苛立ち紛れに、つい口から余計な言葉が飛び出してしまったのは、無意識に心の何処かで引っかかっていたからなのだろうか……。
「信じるも何も、私はコレでいいと言われて選ばれただけの相手ですもの」
すっかり自分の言った言葉を忘れていただろうウィリアムは慌てて
「あれはっ、確かにコレでいいと言ったが、その後にちゃんとリリアーナがいいと伝えたつもりだったのだが……」
言い訳しながら当時を思い出したのだろう。
「あの時は本当に済まなかった。
言い訳になってしまうが、あの時の私は、女性を全く信用していなかった。
今もリリアーナ以外の女性を信用していないが。
だからあの時は自己主張の強く無い者なら誰でも良いと思っていたんだ。
……裏表がなくて、幸せそうに菓子を頬張って笑っている姿も、ちょっとズレてる所も、一生懸命な所も、可愛いと思った。
一緒にいると、楽しかった。
それまで女というものは家柄・財産・容姿に群がる虫のようだとしか思っていなかったんだ。
可愛い等と思ったのは、生まれて初めての事だったんだ」
ソファーの背もたれを挟んでリリアーナを後ろから抱き締めながら耳元で囁く。
「あの時リリアーナを選んだ自分を、褒めてやりたいと思う。
リリアーナで良かった。リリアーナでなければ駄目なんだ」




