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お腹がいっぱいになると、大概人は眠くなるものである。
リリアーナは先程まで眠ってしまっていたので、今は平気ではあるが。
「ダニーが探しに来るまで、膝を貸してくれ」
言うが早いか、ウィリアムはゴロンと横になりリリアーナの膝に頭を乗せた。
「さっきまでウィリアム様に膝をお借りしておりましたから、今度は私の番ですね」
リリアーナは笑顔で言いつつ、ふと先程の台詞が気になった。
「……あの、ダニエル様が探しに来ると言う事は、何かお仕事があるのではないのですか?
ここでゆっくりしていて大丈夫ですの?」
「いいんだ。急ぎの仕事は終えているし、あとは私でなくても大丈夫な案件だけだからな」
それ、ダニエル様に押し付ければいい案件と聞こえる気がしますが(苦笑)
「それよりも、いつまでウィリアムと呼ぶつもりだ?
私はそちらの方が気になるのだが?」
ウィリアムはちょっと悪そうな笑顔で、リリアーナのゆるいウェーブのかかった髪を弄りながら、答えを待っている。
先日、この目の前の王子様から『ウィル』と呼んでほしいと言われたのだ。
家族や仲の良い者は皆そう呼ぶからと。
その代わり、リリアーナの事は『リリ』と呼ぶと宣言されたのだが。
呼ばれるのは全然構わない。
けれども、様付け無しにいきなり『ウィル』と呼ぶのは何とも恥ずかしいのだ。
今までずっと『ウィリアム様』と呼んでいたのだから、そのままでもいいのではないかと言ってはみたものの、即却下されてしまった。
腹が立つ事に、リリアーナが恥ずかしく思っている事を知っていながら、『ウィル』と呼ぶまでずっとニヤニヤと眺めているのだ。
リリアーナはプクッと頰を膨らませると、
「気が向いたら呼ぶかもしれませんわ」
プイと横を向き、読み途中であった本を手に取ると、ページを開き読みだした。
ウィリアムはそれ以上揶揄う事を止め、ゆっくりと目を瞑る。
こんな穏やかな時間を過ごすのは、どれくらいぶりだろうか。
そんな事を思いながら、ウィリアムは眠りに落ちていった。
ウィリアムが眠ったのを確認し、リリアーナはお気に入りのひざ掛けを彼にそっと掛けた。
起きる気配は全く無い。
驚く程に整った顔立ちの氷の王子様は、眠ると少し幼く見える。
少しだけ眠った顔にイタズラしてみたくはなったのだが、余りにも気持ちよさそうに眠っているのでやめておいた。
そしてウィリアムが眠ってから小一時間程して、ダニエルがやって来たのだが。
「うわぁ、マジで熟睡してやがる。
コイツ、普段は人の気配に敏感で直ぐに目を覚ますんだけどね」
と、何故かとても嬉しそうに笑っていた。




