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部屋の扉は少しとはいえ開いている。
聞き耳を立てれば話し声は聞こえてしまうし、いつ使用人やこの前の様にダニエルが入って来るとも限らない。少し離れた所には騎士もいるのだ。
こんな恥ずかしい姿を誰かに見られたら……。
恥ずかしさにきっと真っ赤になっているだろう頰に両手を添えると、やはりとても熱かった。
「えと、その、そ、そうです。
わ、私王太子妃教育の時間がありますので、そろそろ行かなければ……」
「そうだな、急がねば誰かが迎えに来るかもしれぬな」
ウィリアムはとても楽しそうにしている。
どうやら髪を結ぶまでは、リリアーナを下ろす気は無さそうである。
根比べでは、いつも彼に負けているのだ。
ちゃっちゃと結んで膝から下ろしてもらった方が、早くこの状況を打破出来るだろう事は、これまでの経験上理解している。
仕方なく腹をくくり、恐る恐る目の前の彼の髪へと手を伸ばす。
サラサラとした長い金髪は、とても柔らかく手触りが良かった。
が、目の前にこちらをジッと見つめているウィリアムの顔がある訳で。
ち、近い……。
やりにくい事この上ないのだ。
「あの、その、ま、前から結ぶのは、結び難いですから、少し横を向いてもらっても?」
そう言えば、ちゃんと顔を横に向けてくれた事にホッとする。
綺麗に結べとは言われていない。
適当でも何でも結べばいいのだ。
リリアーナは自分にそう言い聞かせ、目の前の金髪を適当に一つに纏め、ウィリアムの為に買ってきた紐で結ぶと、彼は嬉しそうに「ありがとう」と言って頭を撫でた。
漸くウィリアムの膝の上から下ろしてもらい、この羞恥プレイしが終わった事に安堵している所に、使用人がリリアーナを迎えに来た。
危なかった。あと少し遅ければ、あの恥ずかしい姿を見られていたのだ。
使用人はご機嫌な氷の王子様を見て一瞬驚きの表情を浮かべ、そして直ぐに何事も無かったかの様に表情を戻すと、リリアーナを王太子妃教育の行われる部屋へと案内した。
正直、今日の王太子妃教育は全くリリアーナの頭に入っては来なかった。
何度も集中する様にと注意を受けてしまったりもした。
ウィリアム殿下の羞恥プレイが強烈過ぎた為である。
これも全て彼の所為だ!と、心の中で『何もない所で躓く』様に祈っておいた。
そしていつもリリアーナが楽しみにしている王城での夕食の時間も、目敏い第三王子ホセ様の一言で羞恥の時間となったのである。
「ウィル、そんな髪紐持ってた?」
国王様含む皆の目が、ウィリアム殿下の髪紐へと集中する。
いつもキッチリと結ばれている筈の彼の髪は、緩く適当に結ばれている為、きっと違和感があったのだろう。
ウィリアムは嬉しそうに顔の角度を変えながら、皆に見える様に自慢げに見せつける。
「リリアーナが私の為に買って来て、結んでくれました」
ウィリアムがそう言えば、皆の視線がリリアーナに集中する。
正確には『結んでくれた』ではなく、『無理やり結ばせた』のであるが。
リリアーナはあの羞恥プレイを思い出して顔を真っ赤にして俯く。
まさかそんな事があったなど知らない皆が、彼女を微笑ましく見つめる中、一人羞恥に震えるリリアーナ。
『もう帰っていいですか?(泣)』
でもデザートは確り頂きます。




