4
週末はあっという間に過ぎ、再び学園と王城へ通う日々を迎える。
いつもであれば、学園から王城へ到着後直ぐに王太子妃教育が始まるのだが、今日は少しだけ時間を遅らせる様にお願いしていた。
遅らせた時間で今向かっているのは、リリアーナの婚約者である氷の王子様ことウィリアムの部屋である。
この部屋に入るのは、あの餌付けの日以来二度目のこと。
ウィリアムはソファーに腰掛けており、リリアーナはテーブルを挟んだ反対側へと腰掛けた。
使用人がお茶とお菓子の準備をし、扉を少し開けたまま出て行く。
これはいくら婚約しているとはいえ、未婚の異性が密室で二人きりというのはあまり良い事とされない為、わざと扉を開けて行くのである。
リリアーナは早速可愛らしい小さな紙袋を取り出すと、ウィリアムに「どうぞ」と手渡した。
「週末に弟のエイデンと町まで出掛けまして。
そこでウィリアム様にとても似合いそうな物を見つけましたので、お土産に買って来ましたの」
「リリアーナが私に?ありがとう。開けてみても?」
「ええ、どうぞ」
ウィリアムは早速袋を開けて、中から発色の綺麗な碧い紐の様な物を取り出した。
「髪紐ですわ。とても綺麗な色合いでしょう?」
自信たっぷりにご機嫌な様子で言い切る姿はまるで小さな子供が「どうだ、凄いだろう」と胸を張って言っている様で何とも微笑ましい。
「とても可愛らしい小物がたくさん置いてあるお店なんですよ。オープンしたばかりのお店らしくて。
イアン兄様とエイデンと侍女のモリーが、気分転換と王太子妃教育を頑張っているご褒美にと、サプライズで計画して、連れて行ってくれました。
兄様にはペン立て、エイデンにはブックカバー、モリーには髪飾りをお土産に選びましたの。
素敵なものばかりで、選ぶのが本当に大変でしたわ。
あ、でもウィリアム様の髪紐は、瞳の色と同じ綺麗な色をしておりましたので、直ぐに決まりましたのよ」
楽しそうなリリアーナの話を相槌を打ちながら聞いていたウィリアムは、髪紐を手にしたまま立ち上がると、リリアーナの座るソファーへと移動して隣に腰を下ろした。
今はあの笑い上戸なダニエルも居ないわけで、何故隣に座ったのか意味が分からず困惑するリリアーナ。
ウィリアムは結んでいた髪を解き、お土産の髪紐をリリアーナに渡し微笑む。
「リリアーナが結んでくれ」
この場にダニエルがいたらきっと、天変地異の前触れだと大騒ぎになった事だろう。
とは言え、リリアーナは目の前の彼が笑わないと聞いた所で、既に笑った顔を何度も見ている為、それがどれ程凄い事なのかを全く理解していないのだが。
「分かりましたわ」
髪紐を手にリリアーナが立ち上がると、ウィリアムは不思議そうな顔をする。
「何処に行く気だ?」
「ウィリアム様は背が高くてらっしゃるので、失礼ながら背後に回って結ぼうかと」
「何だ?高さが問題ならこれでいいだろう?」
リリアーナをヒョイと持ち上げると、自分の膝の上に向き合う形で乗せるウィリアム。
リリアーナがウィリアムを跨いで座る状態であり、身長差のある二人の目線が丁度同じ高さになっている。
これは決して淑女のする事ではない。
突然の事に全く抵抗も出来ず、片手に碧い髪紐を持ち、固まるリリアーナ。
目の前には綺麗な顔で微笑む王子様。
逃げようにも腰の後ろにガッチリと手を組まれており、逃げ出せそうにない。
万事休す⁈




