11
「姉様、それは何?」
「王子様から頂いたお菓子の詰め合わせよ」
「そういう事を聞いているんじゃないよ。婚約回避の為に登城したはずが、正式な婚約者になってそんな物まで持たされて。いったい何をどうしたらそうなるのさっ」
屋敷に着いて早々に、エイデンに応接室へ拉致され……もとい、連行されました。
片側のソファーにはお父様とお母様が、テーブルを挟んだ反対側のソファーにイアン兄様と弟のエイデンが腰掛けており、リリアーナはテーブルの横、絨毯の上に正座をさせられている。
「そうだね。ここにいる皆に分かる様に、始めからキチンと順を追って説明してもらおうかな。いいね、リリアーナ」
「……はい」
本来であれば絶対にお断りなど出来ない王家との婚約話を、娘の為にと頑張って頑張って何とか掴んだチャンスを、一瞬にしてものの見事に粉砕してくれた張本人に、オリバーも納得がいっていない模様。
誰も味方のいない状況で、リリアーナはもともと小さいが、更に小さくなりながら説明を始めた。
国王様に「若い者同士で話した方が」と言われて、婚約回避の為のチャンスとばかりに着いて行った事。
他の御令嬢にパスしようとしたけれど失敗した事。
何故か王子様にお菓子を食べさせられた事。
食べ足りないと思われて詰め合わせを用意された事。
「距離を詰めたと仰られても、特に何かした記憶も、された記憶もありませんわ。強いて言うならば、鼻毛を侮るなとアドバイスを贈った事くらいですわね」
これには家族全員(リリアーナ除く)が呆気にとられた。
王子様に向かって「鼻毛を侮るな」だなんて、何を話していたらそうなるのだと。
そして、そんな事を言うリリアーナのいったい何処を王子様は気に入ったのかと。
オリバーは力無く肩を下ろし、大きな溜息を一つついた。
「もう決まってしまった事をいつまでも言ったところでどうしようもない。近日中にリリアーナは王太子妃教育を受ける事になるだろう。学園の授業が終わったら王城へ向かうのだ。忙しくなるだろうが、これはリリアーナが自ら招いた事だ」
「え〜」
リリアーナが嫌そうな顔をして思わず口に出せば、オリバーはギロリと目線を向けて
「決定事項だ」
と一言言うと、ジアンナと部屋を後にした。
イアンとエイデンはリリアーナの隣にしゃがむと、
「ま、リリアーナなりには頑張ったんだろ?だいぶ間違った方向だったんだろうけど」
と頭を撫でていたが、リリアーナの心の叫びは誰にも届くことはなかった。
『足が痺れた……(泣)』
 




