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「お前は笑い過ぎだ」
眉間に皺を寄せてウィリアム殿下は机からソファーの方へと移動して来たかと思えば、何故かリリアーナの隣にドカッと腰を下ろした。
何故に隣? と驚くリリアーナ。
マッチョな青年ダニエルは笑いながら立ち上がり、最初にウィリアム殿下が座っていた、リリアーナとテーブルを挟んだ向かい側のソファーへと座った。
成る程、そういう事か。
まだ決定していない(ほぼ確定だがリリアーナは認めていない)とは言え、婚約者(仮)の隣に他の男を座らせる訳にはいかないという事だろう。
そういう気遣いは出来るのに、何故歩調を合わせたりきちんと言葉にする等、もっと丁寧な扱いが出来ないのか。
とっても残念である。
ウィリアムは隣に座るリリアーナを少しの間ジッと見ていたかと思えば、テーブルの上に残っているお菓子を手に取り、いきなりリリアーナの口元へ持っていった。
思わず反射的に口を開けてパクついてしまってから、リリアーナは『しまった』という顔をしながらも、口はモゴモゴとしっかり動いている。
ウィリアムは口角を上げて小さく笑いながら「フム」と自分の中の何かに相槌を打つように誰ともなく答えると、また一つお菓子を手に取り、再度リリアーナの口元へと持っていく。
これは何のプレイですか?と脳内で激しくツッコミを入れるリリアーナ。
ウィリアムはジッとリリアーナを見ながら、その手を下げる様子は全くない。
リリアーナが我慢出来ずに食べるのが先か、ウィリアムが諦めて手を下ろすのが先か。
リリアーナの目は激しく泳いでおり、一度も二度も同じ事と思ったのかどうかは不明だが、仕方なくまた口を開けてパクついた。
この勝負、どうやらウィリアムに軍配が上がった様である。
向かい側に座っている筈のマッチョな青年ダニエルは、最早笑い過ぎて声もたてずにピクピクと痙攣を起こしている。
常に引き結ばれていた氷の王子様の口元はずっと口角が上がりっぱなしの状態になっており、心なしかピリピリとした雰囲気は若干和らいだ様に感じられる。
テーブルの上のお菓子が無くなるまで、ウィリアム殿下のリリアーナへの餌付け時間(又の名をリリアーナの羞恥プレイ時間)は続いたのだった。
そしてリリアーナの小さな呟きは、誰の耳に届く事もなくかき消えていった。
「……喉乾いた」