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ブフォッという何やら吹き出す様な音(声)に自分が今いる場所を思い出し、リリアーナは思わずギギギ……と音がしそうな程にぎこちなく、口いっぱいにお菓子を頬張ったままの顔をそちらに向けると。
驚きに目を見開いて机の向こう側で固まっているウィリアム殿下と、机の手前で口に手をあてプルプル震えているマッチョな青年が。
リリアーナはカップに残った少し冷めたお茶で無理矢理に口の中のお菓子を流し込むと、カップをテーブルに戻し衣服の乱れなどをチェックした後、背筋をピンと伸ばしてから
「そちらのお話はもう終わりましたの?」
と、御令嬢らしく微笑みを浮かべながら暢んびりとした口調で無かった事にしようとした。
しようとしたのだが、マッチョな青年が堪らず声をあげて笑い出した為に、無かった事には出来なかった模様である。
しかもご丁寧に目に涙まで浮かべている。
そしてそれまで固まっていたウィリアム殿下まで、声をたてて笑い出したのだ。
これに今度は爆笑していた筈のマッチョな青年が固まった。
これでもかと言う程に目を見開き、口もポカンと開かれ、ちょいイケメン寄りだった顔は残念な顔になっている。
ウィリアムはそれに気付くとムッとした様な表情に。
「ダニー、何だその顔は」
「いや、だって、おま、ウィルがいきなり笑うからだろ。知ってるか?ウィルがこう、口角をちょっと上げて笑っただけで明日は嵐かって大騒ぎなんだぜ。それが声たてて笑うとかさ、何それ、天変地異の前触れ?」
「私が笑ったくらいで大袈裟な。くだらん」
「いやいや、長い付き合いの俺だって、お前が最後に笑ったの見たのって何年か前だったと思うぞ? いやぁ、それでこの御令嬢は噂のウィルが選んだ婚約者でいいのかな?」
ダニーと呼ばれるマッチョな青年は、人懐っこそうな笑顔を浮かべてリリアーナの方へ向かって行く。
リリアーナが腰を下ろすソファーの横で、リリアーナの目線に合わせる様にしゃがむ。
「俺は氷の王子様って呼ばれてるコイツ、ウィリアム殿下の幼馴染兼部下のダニエルだ。ダニーと呼んでくれ」
「……リリアーナ・ヴィリアーズです」
「リリアーナ嬢か。いやぁ、君のお陰で貴重なものが見られたよ。ウィルの笑う姿とか、数年振りに見たわ」
ダニエルは思い出したのか、また肩を震わせて顔を床に向けて笑い出した。