6
「おぉい、ウィル。例の件なんだが……」
と、ノック無く許可も得ずにズカズカ部屋へと入って来たのは。
ウィリアム殿下より少しだけ低めの背に、確りと鍛え上げましたと言わんばかりの筋骨隆々な暑苦しい体を近衛騎士の制服で包んだ、20代前半と思しき青年だった。
ウィリアム殿下の事をウィルと呼ぶあたり、相当仲の良い相手と見受けられる。
顔を上げたリリアーナと青年の視線がバッチリ合うと、青年は気まずそうに
「っと、お客さんだったか。済まない。また出直して……」
言いかけた所でウィリアム殿下が
「構わない。とりあえずそっちに……」
机の方を指し、リリアーナの方をチラッと見やり
「ここで少し待っていろ」
と言ってから、机の方へ移動して行った。
別に待たなくても婚約回避に同意さえして頂けたらサッサと帰りますっ! と脳内で毒付きながらテーブルへと視線を向けると、美味しそうなお菓子がたくさん並んでいた。
そういえばさっき紅茶を淹れてくれた使用人がお菓子も並べて行ったっけ。
……待っていろって事は、これを食べて待っていても良いのよね。
リリアーナはおそるおそる手を伸ばし、たくさんある中から小さなチョコレートの様なお菓子を選び、口に入れた。
それは今までに食べたどのお菓子よりも、素晴らしく美味しく感じた。
『美味しい〜〜〜〜〜っ‼︎』
叫びたいのを声に出さずに何とか耐えて、あやしく悶えつつも、もう一つ口に入れた。
嗚呼、美味し過ぎるっ!
こっちのお菓子はどうかしら?
まあ、これも素晴らしく美味しいわ。
ではこちらのお菓子は?
最初のおそるおそる伸ばした手は何だったのかと思える程に、今伸ばす手には全く遠慮がなくなっている。
最早何の為に自分がここにいるのかは忘却の彼方である。
リリアーナがお菓子の美味しさに悶えている場所から少し離れた机の前で、ウィリアムは筋骨隆々の近衛騎士の青年から受け取った書類を見て、指示を出していた。
重要案件という程ではなかった為、書類にサインをして青年に戻し、ふとリリアーナの方に視線を向けて、固まった。
そんなウィリアムを見て、青年もリリアーナの方へと振り返り、何の遠慮もなくとっても幸せそうな笑顔で次々と可愛らしい口にお菓子が吸い込まれていくのを見て、耐えられずに「ブホッ」と吹き出した。