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ウィリアム殿下のお部屋に到着すると一応扉を開けてはくれたが、顎で中を示され『そこは「どうぞ」とか何とか言いなさいよっ』と喉まで出掛かった言葉をグッと堪えて、「失礼致します」と足を踏み入れた。
中はシンプルと言えば聞こえはいいが、最早シンプルを通り越して殺風景。
余計な装飾品等はまるで無く、つい『お掃除が楽で使用人が喜びそう』等と思ってしまった。
リリアーナは小さな可愛らしい物を飾るのが大好きで、掃除が大変だとモリーがいつもぼやいているのだ。
ウィリアム殿下はスタスタとソファーへと向かい、一人座ってしまわれた。
雑な扱いに苛立ちは募るけれども、正直小走りで疲れているのだ。
リリアーナは早く座ってゆっくりしたかったので、テーブルを挟んだ席へ「失礼します」と言って腰掛けた。
座れたのはいいけれど、これって案内されて無くない?
決して楽しい等とは言えないこの雰囲気の中、使用人がお茶を淹れてくれ、テーブルには美味しそうなお菓子も並べられた。
リリアーナは高級であろうお茶を頂き、喉を潤すと
「一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
愛想の『あ』の字も無いこの王子から、少しでも早く解放される為に直球で聞く事に決めた。
返事は無かったが、こちらを確りと見据えた王子の様子に許可されたものとして続ける。
「何故私を選ばれたのでしょう。ウィリアム様のお言葉は『私がいい』では無く『コレでいい』でした。つまり私で無くても良かったという事ではないのですか?」
「まあ、そうなるな」
悪びれずに肯定する王子様。
よし!このままの流れで他の御令嬢へパスしてしまえ!
「では、私には身に余るお話ですので、他の方にして頂きますよう、お願い致します」
これでこの話は無かった事に……
「無理だな」
ならなかったぁぁぁぁああ(泣)
何故だ!ここで素直に認めて次に行ってくれなきゃ私が困るっ‼︎
「何故ですの?私で無くてもよろしいのですよね?」
「お前は御令嬢達の中で一番ギラついていなかったからな。どうやら私よりも料理の方に興味があった様だが」
そう言って、思い出したのかウィリアム殿下はククッと小さく笑ったのだ。
笑わない王子様が笑った事よりも、食べる姿を見られていた事がショックだったのと、やはり地味目にした事で逆に目立ってしまっていた事にうな垂れるしかないリリアーナだった。