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「リリアーナは三人おります子供の中で唯一の女の子でして。甘やかして育ててしまったせいか、些かのんびりといいますか、マイペースな子に育ちまして……」
『だから王太子妃は務まらないですよ』アピールをしてみるのだが、国王様と王妃様は全く気にする素振りを見せる事なく
「ウィリアムがカチカチの堅物だから、マイペースなくらいの方が丁度良いのではないか?」
などと二人、楽しそうに話されている。
王妃様は王子ばかりで可愛い女の子が欲しかったそうで、優しい笑みを浮かべてリリアーナを見ている。
「娘と一緒に買い物したりお洒落なカフェでお茶を楽しむのが夢だったのよ」
そんな風に言われ、どんどんと逃げ道を塞がれて逃げられない状況に追い込まれていくリリアーナ。
国王様と王妃様がダメなら、ウィリアム殿下に撤回させるしか方法は無さそうだ。
リリアーナはどうにかして婚約者の座を他の御令嬢に押し付……変更して頂こうと、ウィリアム殿下が来るのを待つしか無かった。
引き攣り笑いで顔面の筋肉が崩壊する前に、何とかウィリアム殿下が仕事を終えて部屋へと入って来られた。
ニコリともしない顔は、整い過ぎている分余計に冷たい印象を与える様だ。
そして来たばかりのウィリアム殿下に向かって国王様が何を血迷ったのか
「後は若い者同士で話をした方がいいだろう?ウィリアム、リリアーナ嬢をお前の部屋へ案内してやるといい」
と言い出した。
この氷男と二人きりとか、どんな罰ですかっ?
……と一度は思ったものの、よくよく考えれば婚約相手の撤回を求める為には、その方が都合が良いのではないか。
うん、そうしよう。
その為にも
「それではウィリアム様、御案内お願い出来ますでしょうか?」
と、和かに笑顔で言えば、部屋の皆に聞こえる様に盛大に息を吐き出して。
「ついて来い」
偉そうな物言いに、またまたこちらを見ずに部屋を出て行こうとしている。
慌てて国王様達に挨拶をし、ウィリアム殿下の後を小走りでついて行く。
本当は小走りなんてはしたない事は御令嬢はしたらいけない事なのだが、この王子様、私の為に歩調を緩めちゃくれないんだもの。
普通、紳士なら、婦女子の歩む速度に合わせてくれるものじゃあないんですかねっ?
……ふぅ、ちょっと息切れが。
歩み寄るっていう言葉をご存知?と言ってやりたいのを我慢して飲み込み、一生懸命ただ王子様の後をついて行った。