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「……というわけで、無理矢理でも何でも初めて『氷の王子』が選んだ相手という事で、国王様と王妃様はリリアーナを何としても婚約者にするおつもりの様です」
そう言ってイアンは口を閉じた。
いや、閉じざるを得なかった。
貴族社会というものは面倒なもので、余程の事がない場合格上の爵位を持つ家からの求婚を断る事は難しい。
ましてや今回は相手が王家である。
いくら歴史の古い伯爵家とはいえ、所詮は伯爵でしかなく、王家に逆らう事などあり得ぬ事である。
「……リリアーナは余程目立つ事でもしたのかい?」
今日は地味目の装いで行かせた筈で、いくらリリアーナが可愛らしいからといって、特別な美人という訳ではないのだ。
余程目につく様な何かをしなければ、王子様の目に留まる事など無かったのではないのか。
そんな疑問が湧いて、聞いた所でどうにもならないのは分かっているが、つい聞かずにはいられないオリバーだった。
「お父様に言われた通りに地味に目立たぬ様、壁と同色のドレスを選び壁の花になっておりましたわ。せっかく美味しいお料理を食べている最中に、見合い対象者は国王様達の前に、横一列に並ぶ様にと呼ばれました。それでも私、頑張って王子様から一番遠いベストポジションをキープ致しましたのよ?キープ致しましたのに、何故私なんですの?しかも目も合わせずに『コレでいい』とかぬかしやがりましたのよ⁈お陰で全種類食べようと思っていたお料理の半分も食せず帰る羽目になって……」
リリアーナは悲しそうに目を伏せて、溜息を吐いた。
「姉様、ドレスがどうのとかいう以前に、踊りそっちのけで食ってる御令嬢って、目立つんじゃないですかねぇ?」
エイデンが呆れた様に言うと、リリアーナはムキになって
「そんな事ない筈だわ。大きな花瓶の横に隠れる様にして座って食べたもの」
「ちなみにその花瓶の色は、壁と同じ?」
「いいえ、薄いグリーンの綺麗な花瓶だったわ」
「壁と同じ色のドレスの意味は?」
「あ、あれ?」
そのやり取りを呆れた様に見ていたオリバーは、
「今更何を言っても仕方のない事だな。三日後に登城する事は決定だ。今日はもう遅い。色々あって疲れただろうからゆっくり休むがいい」
そう言ってジアンナと部屋を後にした。