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あなたがあなただったから。  作者: 小鹿志乃
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第五話 あなたが好き

「次どこにするー?」

「立ち飲みとか行ってみたいなぁ。」

「流行ってるんでしょー?私行った事ないよー!」

夜の繁華街を二人はほろ酔いで歩いていた。


「外に飲みに行くなんてすごい久しぶり!」

「この夜の空気いいねー!」


秋はあの泊まりの翌日から二週間ぶりに苗に会うので緊張していたせいかお酒が早く回った様子。



あの日思い切って自分から聞いてみる事にした秋だったが。

「苗ちゃん。昨日のあれさ。」

秋はコーヒーカップを包む両手をソワソワさせている。

「うん。」

その手を苗はじっと見たまま聞いていた。


「......私ちゃんと覚えてるからね。酔っ払ってはいたけど、悪ふざけではないから。」

「うん。」

「その...。」

「私も覚えてるよ」

(あ、やっぱり。あれ?なんて言おう?どう言うのが正解??)

「秋ちゃん今度二人で飲み行こう?外にさ、旦那さんに子供達見ててもらえる日とかに。」

「い、行く!」


その後お昼を食べる前に苗と子供達は

「旦那さん出張から疲れて帰って来るのに私達いたら悪いから帰るね〜」

とあっさり帰って行った。



という訳ではっきり伝えてないまま、LINEで連絡は取るもののあの事には触れず。

二週間後の今日、お互いの夫の予定がつき、外に飲みに出ることになった。


一軒目ではしっかり食べて飲んで、次はゆっくり飲もうと、二件目を探し歩いている所だ。


「立ち飲みかーでも座りたいなぁー。」

「確かに、そんな若くもないし。足痛いね〜」

「あ、ここ個室だって!ソファ席!」

何となく歩きながら看板や店を眺めていると、おしゃれな看板が目に入った。

「静かでゆっくり飲めそうだね、大衆居酒屋も好きだけど」

「じゃあ三件目は大衆居酒屋にする?」

秋がご機嫌に言うと、苗は真面目な顔で

「コンビニでウコンでも買っとく?」

と入ろうとしている店の向かいにあるコンビニを指差した。

「...賛成。」

「ウコンは裏切らないから」

「わかる。」

「昔は平気だったのにねー!」

「本当に。30超えてから翌日来るよね!」


ケタケタ笑いながらコンビニでウコンドリンクを買って店先で飲んだ。

「恥ずかしいなぁママなのに〜」

秋はニコニコしながらも年甲斐もなく浮かれている自分に自分で釘を刺した。

「まぁまぁ今日は」

苗が秋の肩にポンと手を置いて

「さ。二件目行こう!」

と個室の店に向かった。

「よし、飲もう!」



そのお店は全てドアでの完全個室で広くはないが、ちょうど良い硬さの一人がけにしては広めのグレーのソファが丸い木のテーブルを挟み向かい合わせで置いてあった。

照明は小さなシャンデリアで電球の暖かい落ち着く灯だ。


若い男性店員が部屋に案内してくれた。

「やばい、寝ちゃいそうな雰囲気。」

既に一軒目で飛ばし気味だった秋がソファにどっかり座ってその座り心地の良さに呟いた。

「せっかくのウコンが泣くから。」

「そうでした。ビールでいい?」

「そだね、その後ワイン飲みたい」

「いいねー」

取り敢えずでビールと3種のチーズの盛り合わせを頼んだ。


「苗ちゃんてお酒強いよね、私も弱くはないけど、顔色とかテンション変わらないよね?」

「そうかな?フワフワはしてるんだけど。」

「割と普段からフワフワしてるからかな?」

「えー?!そうー??」

「うん。」

「秋ちゃんは小さいけど体力あるよね。」

「ないない。すぐ疲れる、年感じる。」


「泊まり行った時もご飯作ってお風呂入れておつまみまで作ってくれたし、ずっと働いててくれたでしょ?一人で動物園とかも子供達連れてよく行ってるみたいだし。」


「泊まりはたまにの事だし、苗ちゃんも手伝ってくれたしね、動物園疲れるけど、家にいるよりはまし。」

「それはねー。」


コンコン。

「失礼します。」

「はーい。」

「お飲み物お持ちしました。」

「ありがとうございます...」


「ごゆっくりどうぞ。」

ビールとチーズを置いて店員は出て行った。

「イケメンだねぇ」

「久しぶりにあんな若い子見たわ」

あはははと二人で笑ってビールで2度目の乾杯をした。


とりとめの無い話をしていた。

「結婚して会社辞めたら付き合いなくなって、でもたまに飲みとかはあったけど、妊娠したらすっかり無くなったんだよね。そんで芸能人のブログとか暇つぶしに見まくった。」

「私もそーゆうの見てたぁ!」

「そんで育児ブログとか『毎日幸せ!可愛い!』『大好き!天使!』とか書いてあっておしゃれな食器で離乳食出したり、『毎日大変だけど、寝顔を見たら忘れちゃう!』とか子供産んだらそういう気持ちになるんだと思った。」


「うん。」


「実際産んだら産んだ感動よりも陣痛長すぎて痛くて辛くて放心してたし。毎日寝不足でずっとパジャマで何処へも行かず、可愛いより大変しかなくて、ただ育児をこなしてくだけで、寝顔を見たら、やっと寝た!って。私には子供を可愛いと思う感情が愛情が欠けてるんだと思った。」


「私は桜が抱っこしてないと泣くから、しかも立って抱っこして立ったまま寝てたよ。芸能人のブログなんてただの幸せアピールだよ。」


「立ったまま?!すごいね!...幸せアピールね、今なら分かるけど。その時は自分が母親失格な気がした。」

「一人目は特に何にも分からないしね。でもさ、毎日ズタボロの格好でも子供の世話してたらそれだけで十分母親として立派だよね。」



しばし沈黙が流れ、秋はビールをグイグイっと飲んで切り出した。

「......なんか。この歳でお酒の力借りないと話せないのも恥ずかしいんたけど。」

「うんうん?」

苗はチーズをつまみながら頷く。

「この前の泊まりの時の事ね...」

申し訳なさそうにうつむき話しにくそうにしていると。

「大丈夫だよ。」

苗が先に口を開いた。

「え?」

「秋ちゃん。私嬉しかったよ、私も話さなきゃと思ってたけど子供達もいたし...」


拒絶の言葉ではなかったし、苗はよっぽど落ち着いていた。

秋は少し安心して話し出した。


「うん。正直に言うとね、どうしたいのか自分でも分からないんだけど、あの時はただ、苗ちゃんが可愛くて。泣いてるの見てたら愛しくてそんな顔させたくないなぁって思ってたらキス...して...た。ごめん。」


「すごい恥ずかしい事言うね。」

と苗は笑った。そして、

「謝らないでね。びっくりしたんだけど、それより嬉しかったの。私前からそうしたかったのかなぁ?て。」

と言って秋を驚かせた。

「えっ!」

「今まで女の人にそんな感情抱いた事ないけど、秋ちゃんにはなんだか友達以上の何かを感じてた。それであの日もつい甘えて泣いちゃった。」

「えっ!それは嬉しいけど...」

苗は恥ずかしそうに笑う。

(あ、可愛い。触りたい。)

秋はムズムズする手をギュッとにぎりしめて我慢した。


「でも。これって不倫になるのかな?」

『不倫』

の言葉がグッサリと浮かれた秋の胸に刺さった。

「どうかな?なるかな?なるよね?旦那以外の人と同性でもキスしちゃったら...」

「同性てだけでハードル下がった気になるけど不倫だよねぇ。」

「はい。」

そう、二人は既婚者で子供もいる。他の誰かを好きになる事なんて許されないのが当たり前。


苗はフワフワした可愛らしい見た目とは逆に言いにくい事を意外とハッキリ言うタイプである。

「その気持ちは嬉しいし、私も...。だけど、胸に閉まっておく。じゃないと今までみたいに遊べない。」

「遊べないのは嫌だよ。」

「うん、私も嫌だよ。だからこの想いは胸に閉まって...ワイン飲もう!」

苗のビールグラスは既に空で、秋も急いでグラスに残ったビールを流し込んだ。

「...飲む!」


秋は正直ほっとしたような気もするが苗に触れたくてムズムズしている手が虚しいような。

苗の言う事が正しいのだ、これ以上どうしようもない。

これは悪い事なんだと言われたのだ。

秋の自覚が甘かった。

子供達は『パパを愛してるママが大好き』だ。それはどんなに仲良しのお友達のママだって他の誰かじゃ許されない、悲しませるし、気持ち悪がらせる。知られちゃいけない。

子供達がいちばん大事。それはわかってる。

でも目の前の苗も大切に想っている。それはお互いにだと分かったのに、それは抱いてはいけない想い。



苗がハッキリ言ってくれなかったら危なかった。

実はこの二週間苗に会いたくてたまらなかった。気づいてしまった想いはなかなか止められない、夫が悪いわけじゃない。


「失礼します、白ワインお持ちしました。」

「ありがとう」


運ばれて来たワイングラス越しに苗を見ながら秋は聞いた。

「...二人で飲みに行くのはいーの?」

苗はふふっと笑って答える。

「いいよ!でもそれだけ。拗ねた顔しないで〜」

「苗ちゃんといるの楽しくて、今まで本当独りぼっちだったから、なくしたくない。」

苗の顔は少し曇ったように見えたがすぐに笑顔で言った。

「うん。私もだよ。」


苗はワイングラスを片手に何処か遠くを見ながら話し出した。

「私ね、幸せだと思うよ。恵まれてる。旦那はちゃんと仕事してくれて、子供達も健康に育ってる。でもね、理解が欲しくて、それが例え口先だけだったとしても『大変だよね、辛かったね、頑張ってくれてるね。』て言ってもらえたらってね...。一緒にいても孤独なんだよね。一緒にいるのに、家族なのに気持ちを分かってもらえないって事は孤独と同じなんだって自分はまるで独りぼっちだって思ったんだ。」


苗の目はあの夜の様に泣きそうに見えた。

秋は手を握りしめて黙って聞いている。


「私が色々疲れたって言った時旦那が『大丈夫だよ!ママ達みんなやってる事なんだから!苗は強いからちゃんと出来るよー!頑張って!』て言ったの。悪気なんかないのは分かってるんだけど。そうじゃないんだよ、ギリギリなんだよ!私強くないんだよ!って言えなくて寂しくなった。」


カタンッ!

テーブルが動く音がして苗に影が被さった。

「秋ちゃん?」

秋が困った様な顔をして側に立っていた。

秋は腰をかがめゆっくり両手を伸ばし苗の両頬を包む。

「秋ちゃん、さっき言ったばっか。」

「苗ちゃん泣いてるから。」

「まだ泣いてないよ。」

「泣いてるよ。」

ほんの少し濡れた苗のまつ毛がシャンデリアの光でキラキラと光って見えた。

秋はゆっくり顔を近づけてそっと苗の頬にキスをした。

「秋ちゃん、ダメだって。」

苗は秋の腕を掴む。

「うん。分かってる。ちゃんとする。」

「してない。」

「分かってるから、今だけ許して。」

苗の目には泣きそうな秋の顔が飛び込んだ。

「あきっ........」

それでも止めようとする苗の唇を秋の唇が勢いよく塞いだ。

その後は優しくゆっくりとキスをした。

ワインのような少しの苦さと甘い味がした。


秋はあの日の夜とは違った確実な想いとともに口にした。

「あなたが好き。」




ここまで読んで下さりありがとうございます!だんだん長くなってますね(*_*)

拙い文章ですが、目を通して頂けて嬉しいです!

お見苦しい点もあるかと思いますがまだ続きますのでよろしくお願いします!

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