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あなたがあなただったから。  作者: 小鹿志乃
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第十五話 紬

柊は1週間して退院した。

その間3回ほど秋は病院に顔を出し、二人で病室でお昼を食べたりした。

退院して少しした頃、苗から

「久しぶりにつーちゃんから連絡が来て、今仕事してないから子供達遊ばせたりランチでもしようって。」

とLINEが来た。


「つーちゃん」とは共通の友達で(つむぎ)という。



初めて(つむぎ)に会ったのは初めて苗に出会ってから数週間後の事だった。

長身でショートボブでチークが濃い目のお洒落な女性だった。


「私一度引っ越してて、前に住んでた家の近くのセンターにも行った事があるの、その時知り合った子が秋ちゃんと同い年なんだけど、桜と同い年の男の子のママでね。ここのセンターも近いから今日一緒に来たいって言ってて...」


苗からそんな紹介を受けて一緒にセンターでの未就学児の英会話体験に来る事になっていた。

その頃子供達は2歳。

子供同士の交流というよりは英語の絵本を聞いたその後は個々で好きなように遊んでいた。


子供達を気にかけつつ子供の遊び場にあるテーブルで自販機のお茶を飲みながら3人で話をした。

簡単に挨拶をして、苗と紬は話し出した。


自分よりも苗と紬は先に出会っていたため当然仲が良く、まだ秋の知らない話もあり何だか会話に入り辛かったのを覚えている。



だがそれも最初のうちで紬は人見知りだと言ったけれど気さくに話しかけてくれて、段々と3人でいても楽しめるようになっていった。


「仕事をさがしてるんだぁ、でもなかなかいいのなくて...保育園もさがしてるんだけど〜」

紡は独特な鼻にかかったような声と甘い話し方だった。


「偉いなぁ私まだ家事育児に仕事って考えられないよ...」

秋は妊娠前はパートをしていたが、妊娠が分かってからはすぐに辞めて。それからは働いていない。


「私もだけど〜働かないとさぁ」


「子供ってすぐ熱出すから仕事休む時気まずいよね...」

苗は時々夫の店の手伝いをする程度。


3人は皆地方出身で苗以外は旦那も地方出身だ。

自分が倒れた時。

はたまた仕事を抱え子供が病気になった時に頼れる身内は近くにいない。



「この前面接の前に電話で、お子さんはいますか?って聞かれて2歳の子供がいますって言ったら、近くにお子さんをみててくれるご家族はいますか?って聞かれてぇ...」

「え?そんな事聞かれるの?」

秋は驚いた。

「私も仕事探した時言われた事あるよ」

苗も経験があるようだ。

「それで?」

「夫婦で実家は地方なのでおりませんって言ったら、もうそこで申し訳ないですけどって、断られた〜」

「えー...面接までも行けないんだ」


「でもわかるよね、子供って本当急に熱出すし、その度仕事休まれたら大変だよね。仕事探してたけど、その後桜がRSで入院したからもうしばらくはダメだと諦めた。」


RSとはRSウイルスと言って2歳までにはみな必ずかかるであろう一般的な風邪のウイルスであるが、小さな子供がかかると重症化しやすい病気である。



「苗ちゃん仕事探してたんだ?」

「お金もだけど、桜と二人でずっといたらノイローゼみたいになって、少し離れた方がいいかと思って自分の世界も必要なんじゃないかって...」


「それは...すごくわかるけど...」

「あたしも〜晴人が今イヤイヤ期すごくて、泣いてどうにもならなくて、頭痛くなって私がトイレに引き籠ったからね〜!」


晴人は紬の息子で桜と真希と同い年

グリグリと黒目が大きく男前な2歳児だった。

見る限りは大人しく電車のおもちゃで遊んでいる。


「晴人くんそんな?」

「すごいよ〜すごい叩いてくるし」

「真希は叫んで転がる派」

「桜はその場から動かなくなるの、唸りながら」


皆んなそれぞれに個性を主張している。

2歳児は自我の目覚めとやらで兎にも角にも「イヤ」ばかりである。

程度こそあれど、母親達は何を聞いても「イヤ」しか言われなかったり。

「イヤーー!」と暴れられる事もありとても忍耐のいる時期である。



子育ての大変さは一人で抱えると毒になるが、同じ気持ちを共有できる友達と出会い話せる事で話のネタになる。

同じように泣き叫んでいても、なぜか友達の子供だと声をかけてやりたくなる。

自分の子供が暴れると「あぁ、また...」

とがくっと来る。


紬と秋は連絡先を交換し、この後子どもを交え3人で何度か遊んだが紡が仕事を初めてからはしばらく会っていなかった。

苗と紬は二人でも会っていたり連絡はしていたので、正確には3人で会う機会があまりなかった。



時折苗から

「この前つーちゃんから連絡来たけど仕事が長い立ち仕事で腰を痛めたみたい、いい整体とか整骨院知らない?って」

と聞かれたり。

「私は家の近くの所、安いからちょこちょこ行ってるよ!」

と教えたり。


「今度つーちゃんが秋ちゃんも一緒にランチに行こうって」

と今回のように苗伝いに言われる事が多かった。






''いつでもいいよ!私つーちゃんに会うの久しぶり!"


秋はすぐに返信した。

正直本当に久しぶりで少し緊張していた。

前に会ったのは苗と秋と紬で子供達と公園で遊んで以来、なえが泊まりに来たあの夜よりも何か月も前だ。



(変に思われないようにしよ。)

苗と友達以上になってから第三者を交えて会った事がなかったので、変に緊張する。


(でも、もしかしてまたドタキャンになったりするかな...)

子供達が幼稚園でいない静かな家で昨晩の残り物のハンバーグをご飯に乗っけて目玉焼きも乗せたお昼ご飯を食べながら紬と遊ぶと約束しても3回に1回ぐらいは来なくなる事を思い出していた。



紬は自分でも「不安定」だと言っていたが、そのせいなのかわからないが、約束しても前日とか前々日とかに「やっぱりやめておく」

とドタキャンする事が多かった。

その理由は

子供が具合が悪いから

天気が悪いから

紬の調子が悪いから

風邪が流行っているから


等様々だ。

どれも普通の理由で気に留めていなかったが、3回に1回の頻度はなかなかである。



(ま、いいか。来れなかったら苗ちゃんと二人だし。来れたら久しぶりで子供達も喜ぶし。)



昨晩の残りを使ったお昼ご飯はなかなか美味しかった。




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