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あなたがあなただったから。  作者: 小鹿志乃
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第十四話 赤い糸

苗はすぐに目を覚ました。


「あ、うそ!寝てた?!」

「寝てた」

「ごめん昨日寝てなかったから...」

話して泣いていくらかすっきりしたのか、苗は気持ちを切り替えたようだった。


「だよね」

「あ、ごめん。私荷物を取ってくるね」

「うん。安心して行っておいで、柊くん私が見てるから。」


「本当ごめん、助かる、パンももらってく、ありがとう。」

「いいから、いいから」

「もし、起きたらDVDプレーヤーあるからアニメ見せててくれる?」

「分かった」


苗は申し訳なさそうにやつれた顔をして病室を出た。


柊は良く寝ている。




『最近本当によく苗ちゃんと遊んでるね』

つい最近朔弥に言われた言葉が頭をよぎった、

なんだか少し影のある言い方だ。


苗とどうにかなっているとは思っていないだろう、ただ「苗と遊ぶ」と言って「他の誰か」と会っているのではないかと勘ぐっているようだった。


朔弥とは長いこと寝ていない。

お互い疲れているのも本当だが秋がどうしてもダメで逃げているのだ。


苗とはキスをしたけどそれ以上はないし、秋の中ではもっと触りたい気持ちがあるけれど、嫌がられるのが怖い。


この先朔弥に苗に対する想いがバレる事はないだろう。

これから苗と子供達とで遊ぶ時は写真を撮って送れば朔弥は安心するだろうし、疑いも晴れるだろう。

でも、朔弥に対する秋の嫌悪の気持ちがバレる事はあるかもしれない。



(話し合う?....解決なんかしないでしょ。朔に言いくるめられて終わりだ。カウンセリングに行く?いや.....もういいよね。)



30分ほどすると柊が目を覚ました。

「ママ...?」

「あ、柊くん起きた?」

「.....」

まだ少しボーッとしている

「ママは荷物取りに行ってるけど、すぐ帰ってくるよ」

「.....」

「アンパンマン見る?」

「みる」

「うん、じゃあちょっと待っててね〜」


DVDを、用意しながら

秋は自分の気持ちが確実に固まっていくのを感じていた。


(みんな夫婦の問題は必ず解決して乗り越えて行けるものなのかな...そうじゃないといけないのかな...)



苗は2時間ほど出ていてお礼だと言って子供達にとお菓子を買って来てくれた。


柊はアニメを見ながらまたウトウトと眠ってしまったので、秋はお茶を飲んだりスマホを見たりして時間を過ごしていた。


「一回起きたんだけどね、寝ながら見てたらまた寝ちゃった。」

「やっぱ、体力消耗してるんだよね。」


「苗ちゃん家で少し寝た?」

「あ、ちょっとだけ、ごめん」

「いや、いいの。少しでも家で寝れた方がいいよ、まだ入院生活続くし。」


「秋ちゃんありがとう、もう大丈夫だから帰ってもいいよ?」


「うん....でもちょっと話したい」

「秋ちゃんが平気なら」


「あのさ、昔運命の赤い糸ってあったでしょ?」

秋は隣に座った苗を横目に話し始めた。


「懐かしいね!」

「幼稚園で聞いたのか真希が言ってたの。」

「何て?」

「真希の小指の赤い糸はどこー?誰と繋がってるの?って、けんくんがいいなぁーって」

「可愛い〜女の子だね真希ちゃん。」

「まだ、子供だから見えないんじゃない?って言っといたんだけどね。」

「なるほど、いい答え方ね」


「...それでちょっと思ったんだけど、私達は結婚してる。でも結婚して子供達がいるから出会えてここに今こうしているわけでしょ?」

「そうね結婚してなかったら出会えてないね。」

「だから右手の小指の赤い糸と繋がってるのは苗ちゃんの旦那さんでいいから」

「?」

苗は自分の小指を眺めた。

「左手の小指の赤い糸は私と繋がってたらいーなーとか思って...」

「え?」

一瞬時が止まったようにシンとした。


「あ...何でもない」

キョトンとした苗の反応を見て自分で言ってる事がとても恥ずかしくなり口をつぐんだ。

「え、え?何?すごい可愛い事言うんだね〜ちょっとびっくりした!」

さっきまで疲れた顔の苗がパッと明るい顔になった。


「...」

秋は赤くなって俯いている。

「右手じゃなくて?」

苗はからかい半分に小指を差し出す。


「いい。旦那さんと結婚してるから私達は出会えたんだからそれは正解。」


苗は自分を素直に想う秋が可愛くて胸がくすぐったく嬉しくてたまらなくなった。


「正解かは分からないけど.....もちろんいいよ」

「本当?」

「ふふっ...赤い毛糸を結ぼうか?」

「本当に結ばなくてもいーよ。」

秋はからかわれてるようで少し投げやりに言った。

「あ、怒らないでー。」

「確かに恥ずかしいよね。真希の話を聞いて思っちゃっただけ。」

「そうじゃないよ、秋ちゃんには小指じゃなくて、なんかもう心全部あげてる。」

「えっ?」

驚いたような飛び跳ねて喜んでいるような秋を見て、


あぁ可愛い、秋ちゃん可愛いな。


という気持ちが湧き上がり苗の胸を熱くさせた。


「ねぇ、今時高校生だってもっと大人な事言うんじゃない?秋ちゃん意外なとこあるのね」

「思いついちゃったのを言ってしまっただけ」


「運命の赤い糸ね...旦那と出会った時も運命!とは思わなかった、普通に恋して普通に結婚したの、もちろん幸せだったけど」


「運命って感じたよ私。」

「旦那さんに?」

「苗ちゃんに、こんなの感じた事ないよ」




あの日初めて市民センターに来た苗と出会えたのも。

人見知りの苗から連絡先を聞いてきてくれた事も

家が意外と近いのも

旦那が忙しいのも。

ワンオペ育児で実家に頼れないのも。



みんな運命だったんだと思えた。




二人の間に柔らかい空気が流れた

クスクス笑い合い手をつないで話をした。



秋は子供達が帰ってくる前にと病院を後にした。


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