信頼
この世界の衛星も月っていうんですよ。違う名前でもよかったけどわかりにくいのでそうしました
あとチーム名を「七天人」から「栄光の者」に変えました
「グロゥリーズ?」
「チーム名だ」
「はあ、チームねぇ……」
ちらりとユグルドがベッドに目をやる。そこにはうつらうつらと今にも眠ってしまいそうなメアリーの姿があった。首がコクリコクリと動き、落ちては起きて落ちては起きてを繰り返していた。こうやって話してはいるが時刻的には真夜中だ。眠くて普通である。
「メアリー様、別に寝ててもいいんですよ」
「違う……」
「ん?」
「様は要らない……メアリーって、呼んで」
「メアリー?」
「うん、そう……」
そう言って、遂に首と共に体が横に倒れて、そのまま眠ってしまった。
「……ずいぶん、懐かれたんだな」
「はい?」
「メアリー様のことだ」
「よくわからないのですが?」
ロゼリアはメアリーをベッドの真ん中に移動させ、眠りやすいように態勢を整えた。
ロゼリアも先ほどまでつけていた鎧を外し、ベッドの余ったスペースに腰掛ける。幸いタブルなので、ロゼリアが座ることでメアリーの眠りを妨げることはなかった。
「メアリー様はな、心を許したものに限り様付けを止めるように言うんだ。さっきのやりとり、あれがそうだ」
「はあ……でも」
「私も止めるように言われてるが、剣を捧げた主従の身であるから様をつけているだけだ。……あとお前そのとってつけたような敬語をやめろ。たまに素の言葉が出てちぐはぐだ」
「な!?これでも僕は敬語には多少自信があるんだぞ!?」
「それでいい。そらっ」
ロゼリアが袋から何かを投げつける。ユグルドは済んでのところで受け止めると拳を開いた。窓から差し込んでくる月の明かりを頼りにそれを見るた。なにやら皮のついたヘンテコな乾いた物体。干し肉ではなさそうだ。
「これは?」
「なんだ知らんのか、鮭とばだ。美味いぞ」
ベリベリと皮を剥ぐ音が部屋に響いた。それに習ってユグルドも皮を剥いで齧る。硬い。噛めば味が出るところは干し肉に似ている。なるほど魚の干物か。魚というのは腐るのが早い。だから内陸には基本乾燥されたものしか回ってこない。
ここは水辺に近いため、ユグルドはそういったものを食べたことがなかった。
「栄光の者。これは目的を王の護衛とし、加入するなら国に雇われる形になる。今はまだ4人しかいない。お前を入れて五人となる」
「今まで護衛とか居なかったのか?」
「居た……というか今もいる。だから言ったろう、『新しい』王の護衛だと」
「ふぅん」
足を組み替える。
「で?なんでまた、護衛が新しく必要に?」
「魔王だ」
魔王。人類の敵。
話が急に重くなった。そもそも、魔王は勇者が倒す筈だ。賢者の職を賜ったユークリッドならともかく、自分にそれについて話される理由がユグルドにはわからなかった。
「話が見えないが?」
「そもそもだ。魔王は、勇者を筆頭にした職業しか討てないと言われているが、それは嘘だ。あれらの職業は、強くなりやすいというだけ。あの職業を持たないからといって魔王を討てないということはない」
つまり職という特別な能力は、単に凄い力を持った普通の人で、別に魔王特攻能力とかいうものはない、と。普通の人でもあれほどの強さになれば倒せるが、そのレベルに達するのに時間がかかるために現実的でないわけか。ユグルドは思考をめぐらせながら続きを促した。
「……続けろ」
「そして職業の『勇者』だが……これはこの世界の者には賜ることが出来ない」
「なんだって?」
「魔法陣魔法を知っているなら、召喚魔法を知っているな?」
「あぁ」
召喚魔法は魔法陣魔法の中でも特に難しい物だ。まず術式が難しい。本来魔法陣魔法は、術式というもので発現させる魔法を指定し、魔力に干渉して精霊を介さずに直接魔法を発現させる技術だ。その分魔力は莫大に食う。
だが召喚魔法はその比ではない。まず術式に何を召喚するのか明確にしないことで様々なものを召喚するようにする。そうすることで魔法という事象ではなく物や生き物も呼び寄せることができるのだ。ただし流した魔力本人の所有物か、契約した生物に限るという制限がつくが。
「『勇者召喚』。つまり人を召喚する魔法陣魔法。それが王国の城にある。そしてそれを使って、少し前に国は勇者召喚を行った。召喚された人数……聞いて驚きの28人」
「つまり、勇者というものを指定して召喚する魔法陣だと?全員勇者だったのか?」
「いや、流石に勇者は一人だった。だが他の奴らも、色々な見たことのない職業やスキルを持っていたため、国は彼らを歓迎することにした。しかしこれは以上事態だ。王は万が一のことを考え、最強戦力を栄光の者の結成を決意したのだ」
「なるほど。チーム発足の理由はわかった。だがおかしいな、あんたの話を聞く限り、それは勇者召喚ではない。……何か別のファクターを通してるな」
勇者を指定しているなら勇者のみを呼び出すはずだ。つまり勇者ではなく何か別の要素を指定して召喚しているのだろう。
「そうだ。そして……召喚した後、彼らが発した言葉が問題なのだ。『ここはどこだ』『家に帰りたい』『誘拐だぞ!』」
「つまり……同意なしに召喚できた、と?」
「そうだ。それが予想外だった。幸い彼らは翌日にはこの状況を受け入れているようだったのでまだよかったがな……一つ目の理由はそれだ。お前に魔法陣の調査を願いたい」
ムグムグと口を動かしながら鮭とばを味わう。魔法陣魔法は古代技術。つまりは失われた技術だ。使い手がいない以上、調査をするには文献や伝承で伝えられたものを頼りにするほかない。しかし行き詰まった、と。
「で?一つ目ってことは?」
「栄光の者に入るための条件。それが私よりも強いことだ。これが二つ目になる。私はこれでもかなりの実力なのだぞ?私より強いのは稀なのだ」
「それはわかるが……あぁ、そういう。つまり魔法陣魔法の調査を依頼したいけど見ず知らずの人間。何者なのか分からないし王城に招くのは危険。しかしあんたより強いってことで、そのグロゥリーズの勧誘ついでに調査を依頼する、と」
「いい線をいってるが少し違う。予防線だ。私よりも強いのならば王を殺そうと思えばいつでも殺せる。ならば素性がどうあれそばに置いておいたほうがいい。王はこうお考えだ」
「はぁん……」
なるほど面白くなってきた。ユグルドは王都に行くことに決めた。王都に行くとなると、必ずあの|人に会ってしまうだろうが、まあそれは後で考えればいい。
「わかった。入るよ。そのグロゥリーズとかいうの」
「おお、そうか。ありがとう」
「礼はいいさ。それより……」
「ん?」
座り直したせいで椅子がギシリと鳴る。
「なんか、楽しい話しないか?重い話じゃ気が滅入る。どうせあんたも、姫の護衛してるんだから寝ないんだろ?」
「おぉ!!いいぞ。なら私の冒険譚でも話すとしようか。そうだな、あれは……」
そうして、この夜。この部屋には朝が来るまで小さな笑い声が絶えなかった。