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成人の儀

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 成人の儀というのがある。

 人は皆15の時に、女神像の前で祈りを捧げるとこの世界に根付いた命の証として力が宿るのだそうだ。宿る力は宿ってからでないとわからない。そして法則性もない。いや、あるかもしれないがまだわかっていない。神頼み、正真正銘の博打。

 そして僕も今年で15、成人の儀は今日行われる。少しめんどくさいが外に出て儀式を受けなければならない。


「ユグルドー!ユークリッドちゃんきてるぞ!」

「ユグルド!!!さっさと勉強なんかやめて降りてきなさいよ!!!」

「うるせぇな……今行く!」


 下にいる女に急かされて机の上に広げていた書物を栞を挟んで閉じた。

 今読んでいるのは『魔法陣による魔力伝導およびその魔法威力について』だ。魔法陣というのは今では廃れた技術だ。俗に言う古代文明の技術。

 なぜ廃れたかと言うと単純な話でローテクノロジーなのだ。誰でも魔法陣を書いて魔力を通せば魔法を使えるという点ではメリットだが、デメリットがひどい。

 わざわざどこかに魔法陣を描かなければならない、描く時間もかかる、一つ一つ覚えなければならない、描きだめしたとしてもいちいちそれを取り出さなければならない。

 少しの詠唱を呟くだけで発動できるならそんなデメリットだらけの技術はいらないだろう。詠唱する文も暗記だが魔法陣よりかははるかに覚える量が少ない。

 しかも魔法陣は今の詠唱魔法よりも魔力を10倍近く喰うのだ。時間はかかるし、低燃費。廃れるべくして廃れた技術だと言わざるを得ない。


「ユグルド!!!」

「うるせぇ!!!」


 さて、儀式に向かおうか。







「もう!相変わらず勉強バカなんだから!たまには自発的に外に出なさいよ」



 こんなことを言うのは、家でも馬鹿でかい声で叫んでいた女、幼馴染のユークリッドだ。金髪でスタイルと顔の良い喋らなければ1億点の女。しかし性格を知っているのでマイナスだ。

 何もないのに名前を呼んでくるし毎日僕の家にくるし最悪である。

 なーにが、


 ユークリッド「ユグルド」

 僕「なに」

 ユークリッド「んーん、呼んだみただけ」


 だ!!!死ね!!!!!何もないなら話しかけてくんじゃねぇ!

 あとこんなのもあった。


 ユークリッド「ねぇ……」

 僕「なに」

 ユークリッド「今日、家……行っていい?」


 はあーーーー!?!?!?お前毎日毎日僕の家に勝手に入って寝てるところを起こしにくるだろ!!!!

 当然拒否した。強引に入り込まれるかと思ったがその夜はおとなしく引いていった。まあ、翌日勝手に家に入ってきたユークリッドに起こされるのだが。



「ねぇ、聞いてる?」

「なにが」

「あー!また聞いてない!!」


 隣にいるのに何でそんなに大声で話すのか。うるさくてかなわない。


「たまには外に出なさいよって話!あんなに部屋に閉じこもってたら病気になっちゃうわよ!」

「運動はしてる」

「運動ってあの本積み重ねて上げ下げしてるやつでしょ!あんなの運動って呼ばないわよ!」

「あーはいはいお前の遊びに付き合えばいいんだろ後でな」

「分かってるならいいのよ」


 そう言って僕に向けられた笑顔は本当に可愛かった。喋らなければなぁと常々思う。


 前述した通りユグルドは外に出ていないだけで運動はしている。一時期食って寝て本を読んでを繰り返していたら体が目に見えて弱ったからだ。

 それ以来筋トレを趣味といっても過言ではないくらいには運動しているつもりだ。


「じゃ、教会まで競争ね!よーい……」

「は?おい待……」

「ドン、」

「て……」


 なにが「じゃ」なのかわからないし何で後でと言ったのにいまここで始まったのか。

 あいつの頭の中身はどうなってるのか。

 とりあえず僕は走らないでゆっくり歩いて教会へ向かった。先に着いた彼女に遅いと理不尽に怒られたのは言うまでもない。





「あなたたちに神のご加護がありますように」


 なんて言われながらついに成人の儀の間に来た。道行くシスター全員がおんなじことを言うもんだから怖くて仕方ない。さっさと終わらせてここを出よう。


「では次の人」

「私だ、行ってくるね」

「あぁ」


 流石に小声のユークリッド。トテトテの小走りで駆けていった。

 流れは簡単だ。一人ずつ祀られている女神像の前に祈りを捧げるポーズをとる。それだけ。気づいたらなにかしら力が宿っているというわけだ。いや、教会風に言うとご加護か。

 ユークリッドが祈りを捧げる。すると尋常じゃないほどの光が辺りを照らした。


「やった!私賢者だって!!!」


 ドヨドヨと周りが騒がしくなる。当たり前だ賢者といや聖女、勇者、剣聖に並ぶ四大職業の一つだ。


「で、では……つ、次の方」

「次、ユグルドの番ね!」

「……あぁ」


 あいつが賢者?圧倒的知識量で究極魔法を駆使する伝説の?あれが?

 少し腑に落ちなかった。


 というか僕が賢者になりたかった。そもそもなぜ僕が無心に勉強しているのかというと、魔力が他の人よりも圧倒的に高いからだ。僕は莫大な魔力を身に宿して生まれた。つまりどんな魔力消費の高い魔法でも使うことができる。


『ご加護』があれば。


『ご加護』がない限り魔法は使うことができない。火魔法の加護を得て始めて火魔法が使えるのだ。

 賢者は、どんな魔法も使うことができる職業。スキルではなく職業のため、多分ユークリッドはスキルも別枠でもらっているだろう。

 すこし、いやかなり羨ましい。

 そして僕もいい『ご加護』が宿るように女神像にめいっぱい祈りを捧げた。










 おもむろに立ち上がって、女神像が祀られてる祭壇を降りた。



「どうだった!?まあ賢者に選ばれた私の幼馴染だし?ユグルドは勇者とか?」

「……」

「なによ、話聞いてるの?またいつもの考え事?」

「魔力操作」

「え?」

「僕はそれだけ」

「……嘘」


 僕に宿った『ご加護』は「魔力操作」とかいうそれ単体ではクソの役にも立たないものであった。

 いや、どないせぇっちゅうねん。






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