慕う者と迫り来る者
お待たせしました!!その時、その場で話を考えて進めているのでそこはご理解して頂けたら嬉しいです。
杏月が誘拐されてから半日が過ぎ去ろうとしていた。
従者達もいつもより落ち込んでいる様子で黙々と自分自身の仕事を熟す。
照之はともき達より早くに、朝食を摂っていた。
だが、静かな朝食の場は一転して騒がしくなる。
照之は、黙々と食事を摂っていると、廊下から誰かが走ってくる音と共に食堂のドアは荒々しく開かれた。
「はぁ……はぁ……。お、おはようございますわ!!照之さん、杏月が誘拐されたって本当ですの??」
アリシアは走って向かった為息を少し切らすも、心配と怒りで恐ろしい形相に変わっていた。
直ぐに照之は訂正する。
「わ、我だけではないぞアリシア。皆、杏月を想っておる……。それに学園の騒動に乗じての誘拐だ、ある程度の権力者なのは間違いない」
「…………。だとしても、照之さんがいながらこの失態はいかがなものかと思うのですが??」
「ああ、すまない……。私のチカラ不足だった。必ず探し出す!!我もアリシアと同じ気持ちなのだ。この件が落ち着くまではどうか怒りを鎮めて欲しい」
照之の思いがけない程の真剣な表情にアリシアも少し沈黙した後、アリシアは後ろを向くと言う。
「わたくしも杏月を探すべく捜索に務めますわ。わたくしの愛しの杏月は誰にも渡しませんのよ」
アリシアはそう言うと、振り返り先程とは打って変わった乙女の表情でウィンクしてその場を後にした。
それから学園が始まる頃には、悲報が飛び交っていた。
学園の号外が配られそれを目にしたある一定数の人は、直ぐに行動を起こした。
それぞれが違う形、それぞれの地位や権力を全力で行使し、ありとあらゆる人脈を使った。
皆一同に慕っている少女の1人だけの為に。
そしてそれぞれの想いを胸に動くのであった。
ーーーーーーーーーーーー
一方の誘拐された杏月は、今現在朝食を摂っていた。
杏月はもぐもぐっと可愛らしく食べている杏月に理久斗はついミラー越しから悟られずにその姿を眺めていた。
「杏月さん、とりあえず九州の方には行くんだけど、事情が変わったから杏月さんには少しホテルで待っていて欲しい」
「それは何故です……??」
「んー、俺の用事というか後始末ってやつさ。それより食べ終わったら手を拭いて行こう」
理久斗の忠告にもぐもぐしていた杏月は静かに頷き、もきゅもきゅと食べ進めていた。
それから少し経ち、九州に向けて出発する理久斗。
「杏月さんはとりあえずホテルに待機して貰いたい。事情が変わり少し用事を済ませてからでないと行けなくなったみたいなんだ」
「はい、わかりました」
理久斗がそうに言うと、杏月は静かに頷いた。
「それに君の想い人が予想以上に手強いからね。少し侮っていたよ」
理久斗は苦笑いを零すと、杏月もそれには同意して頷いた。
それから時は進み、予定通り九州に到着すると、都内のホテルにチェックインを済ませる。
杏月も変装する形になり、ジーパンにパーカーを羽織り、自慢の長い黒髪はお団子ヘアーになり、帽子を被ってボーイッシュな姿に変身した。
サングラスやマスクで大幅に顔の露出度を下げるもこの時までは理久斗はある者に気づかなかった。
そのままチェックインをやり過ごすと、2人はエレベーターに乗り5階に向かう。
2人だけの空間に杏月は理久斗の背を見つめていると、エレベーターは5階に到着すると理久斗は杏月の手を引き、周囲を気にしながら足早に部屋の中に入った。
「とりあえず杏月さんは俺が戻って来るまでこの部屋を出ないで下さいね??」
「…………。何かあったのですか??」
「ま、まあな。でも心配する程でもないよ、それにお腹が減ったらフロントに電話するように」
理久斗は嘘ながらも大丈夫と諭す。
理久斗は杏月の華奢な身体を眺め、顔の方に視線を移すと、少し困惑している様子でいた。
「とりあえずこれを」
理久斗は杏月に小型のボタンが付いたリモコンを渡した。
「こ、これは……??」
「ああ、これは一種のお守りみたいなものだよ。これがあればもしもの時はその丸いボタンを押してくれ、そうすれば君の王子様がきっと君を迎えに来ると思うから」
理久斗の言葉に杏月は正直驚いていた、何故それを自身に教えてくれるのかと思っていると、理久斗は優しく微笑みその場を後にした。
残された杏月は部屋にポツンといるも、傍にあったソファーに腰掛け思うのであった。
私は誘拐されたんですよね……。普通なら今頃無理矢理……なのに何故、あんなに優しくしてくれたんでしょうか。それに何故…………こんなに優遇してもらえたのでしょうか……。
杏月は疑問を余所に意識を手放し、眠りに就く。
一方で理久斗は鍵を閉めた後ロビーに向かい部屋にいる者に食事の提供を頼みその場を後にした。
一安心をするのも束の間、理久斗の姿に反応した1人のホームレスが獲物を狙うように理久斗をジッと悟られない様に観察していた。
ホテルの近くの電柱に段ボールを敷いてパンパンに詰め込んだリュックだけが鎮座する。
理久斗が車に乗りその場を去ろうとすると、徐に薄汚れたホームレスはその姿に似つかわしくないスマホをポケットから取り出し、誰かに連絡を取り始めた。
それから少しばかりの時は経ち、照之の方というと、神乃家グループ総出で日本全国を捜索していた。
照之はヘリコプターに乗って上空から地上を見下ろしていると、前に座っていた淳一が口を開く。
「あの……照之様。理久斗から連絡がありました」
「ああ。なんと来たのだ??」
「はい、九州の都内にあるホテルに杏月さんを匿っているそうです。そして理久斗は、九州にある取引場に向かったそうです……」
「……。理久斗は死ぬ覚悟かもしれぬな」
「はい……。前にその覚悟は出来ていると言われた時がありました」
「だろうな、だが案ずるな。こう見えてもう場所は大方特定済み、後は組織の壊滅と杏月の奪還をするだけのことだ」
照之の凛と放たれた威厳ある声に淳一は武者震いをするような感覚に陥った。
照之の隣にいる使いのメイドが耳打ちする。
「照之様、杏月様がおられるホテルは大方絞られました。そして余談なのですが、学園におられる方々があっちこっちで杏月様をお探しになられているそうです」
「ふむ……。誰が動いてくれているか分かるか??」
「もちろんでございます。先ずは杏月様とご学友の方々と、あの神武組の拓海様が何故か血眼になって大暴れしているそうです」
メイドの報告に照之は思わず苦笑いが零れた。
あの組の若頭を動かしてしまうとは……。だからか、最近静かに学園に来るようになったのもきっと変わるきっかけがあったんだろう。ふふっ、杏月は何故それ程魅力的なのだ杏月…………そして必ず助けるからな。
照之はグッと込み上げる気持ちを抑え、目的の場所に向かうのであった。
――――――――――――
杏月を慕う者たちにより、間正の組織は徐々に崩壊し始めるも、この男間正は未だに悪足掻きをしていた。
自身の地位を良い事に数々の悪行三昧だった間正は、今現在小さいホテルに身を潜めていた。
間正は「クソッ!!」と苛立ち小さなホテルのテーブルに飾ってあった花瓶を壁に投げ捨てる。
その行動に間正のお抱えSPは直ぐに止めに掛かる。
「間正様、そう騒いでいると奴らに見つかってしまいます」
「くッ……。クソクソクソ……!!何故俺達がこんなに追い込まれなければいけないんだ!!!!」
「もう起きてしまった事、あの神乃家の逆鱗に触れてしまったんです……。でも、それならあの少女を探しましょう、そうすれば簡単には手出しは出来ないかと」
間正は項垂れるようにベッドに腰掛けていると、SPの言葉に反応したのか不気味な笑みを浮かべた。
その表情にSPはゾッと背筋を凍らせ静かに間正に視線を移す、その不気味な笑みは追い込められているものの、物欲にまみれ絶望と欲望の狭間で理性だけを失った獣がいた。
それから少しするとSPに連絡が入る。
「もしもし」
「コードナンバー89です……。今、標的を確認しました。それで本当に金はくれるんだろうな」
「ああ、約束の金は駅のロッカーに入れておいた。番号は6819だ、ご苦労だったな」
「でわ、これで」
SPはホームレスからの着信を切ると、直ぐに間正に報告する。
「間正様、ホームレスの1人に理久斗を発見したそうです。取引場には組織の者を配置しておきましたので、我々はホテルの方に向かいましょう。もしも少女を匿っていたら……私達で存分に嬲りたっぷりと犯しましょうか」
SPの報告とその言葉に、間正は狂ったように二チャッと笑い、間正とSPは対象物の場所に向かうのだった。
間正は車に乗るとどうに少女を犯してやろうかと欲望は枯渇することなく只々間正を突き動かす。
理性が効かなくなった間正を横目に、SPは静かに小さいホテルを後にした。
それから1時間もしないうちに、間正達は理久斗が匿ったホテルに足を進める。
直ぐにフロントにチェックインを済ませると、直ぐに8階の部屋へ向かうのだった。
同じホテルに滞在していた杏月というと、ソファーにもたれながら未だ眠り続け、理久斗から貰った謎の小型の機械は何故か小さく赤く点滅しているのであった。
――――――――――――
「ちっ……なんだこの数は……!!」
理久斗は武装しているにも関わらず、倉庫にいる警備している人数に思わずゴクリと喉を鳴らした。
コンテナや倉庫が多く建てられていたエリアには部外者は基本入ってこないものの、200人以上の人間があろうことか拳銃や警棒を持ち武装して巡回していた。
理久斗は静かに息を殺し付近にいた1人をパスンっと微かに乾いた音を残し目の前の人間を絶命させる。
また1人、また1人と静かに始末して動いていると、隠れている壁に赤い光が微かに拳銃に当たった瞬間、理久斗はすぐさまその場を離れ少し狭い場所を走りだしながら拳銃と短機関銃をチェンジして駆け抜ける。
目の前にいる敵を的確に処理する、理久斗はただ死と隣り合わせの環境下というのに慌てるとは裏腹に冷静沈着にそして思考も正常に働く。
潜入して既に20人程を超えた時、どこからとなく現れた発砲音と共に理久斗の右腹部を弾が掠める。
少々の痛みがするものの理久斗は直ぐにスモークを背後にたくと、それと同時に左右に現れた警備にすぐさま反応して歯を食いしばり物陰に隠れる為走る。
それから暫しの銃撃戦の攻防のさな、理久斗は弾数や手持ちの武器を確認し整理する。
これまで70人程を無力化に成功するものの、数の暴力にはやはり堪えると思っていると、理久斗の右腕、左足に銃弾がのめり込む。
「クッ……こ、こまでか」
理久斗は本能的に悟る、今までの日常が走馬灯のように脳内を駆け巡り、そして痛みだけが現実に引き戻す。
ああ、終わると直感で悟り、体に付いている手榴弾のピンに手をかけた時家族の顔が浮かび、そして最後は自身で誘拐した少女の姿が脳裏で蘇る。
可愛らしく、愛らしい姿。
怯えるも慣れてきたら優しい笑みをたまに見せるそんな少女の姿を、その瞬間ピンを抜くのを一瞬躊躇した。
「ごめん、ごめんな……杏月さん…………」
理久斗は少し涙ぐんでしまうも傍に来る敵を殲滅すべく自身のピンをゆっくりと引き抜いた。
微かに鉄の擦れる音と共に理久斗は目を閉じた。
ドンッ!!!!と付近で爆発音がすると理久斗は思わず目を見開いた、何故今死ななかったのか、何故生きているのか、それは直ぐに理解させられた。
「ちっ、あぶねぇーなぁ。てめぇ何かっこつけてんだ??」
苛立つようにその言葉を吐いた主を見やると、見覚えのある制服が着崩れ、血がべっとりと付着して苛立つように黒髪を描き上げる少年がいた。
そう、理久斗は危険人物としてマークしていた張本人、裏業界の重鎮、ヤクザのトップに君臨する若頭当主、神武 拓海がそこにいた。
「あ~あ、本当はほって置こうと思ったんだけどな、あの子の名前を聞いちまうとつい、体がつい動いちまった」
拓海はそう言うと、人間では真似出来ない程の脚力でその場から消え去り、周囲で大暴れしている様子だった。
理久斗は余りの出来事に脳は追い付かず力が抜けてしまい、生きる屍となりかけた。
少しすると理久斗がいた辺りは静かになり、拓海は血だらけで少し銃弾の被弾痕が新たに身体に刻まれていた。
「お前、一瞬躊躇していたな??」
拓海の言葉に理久斗はだんまりするも静かに頷いた。
「当ててやろう、お前が生にしがみ付いた一瞬は、あの美しい女。杏月さんだろ??」
「あ……ああ。よくわかったな」
「ふっ……お前の表情を見て直ぐにわかったさ。それにもう直ぐ救助ヘリが来る、俺もお前も少なからず致命傷なんだ。それまで少し話そうじゃねぇか」
「うっ、くッ……ふぅ。ホントに元気だな。お前は本物のバケモンだよ……」
「ははっ、うっせ」
少し照れくさそうに笑うと、拓海は理久斗の近くに座り暫しの雑談をし始めるのであった。
杏月について語り合い、その美しさに心惹かれるエピソードと共に、救助ヘリが来る時には意気投合する中までなっていた。
また1人と、1人の少女によって、周りは自然と変化させる。
この気持ちは届かないと分かっていても、あの優しさ、あの微笑みに救われる者も多くいることだろう。
「杏月が可愛い!!」
「杏月の可愛い姿がもっとみたい!」
と思った方は是非、好評価をお願いします。
評価、ブックマーク、感想などして頂けると、物凄くモチベーションも上がりますので良かったら応援よろしくお願い致します!!