平凡な日常
杏月は学園に通い始め、3ヶ月に差し掛かろうとしていた。
11月頃、少し肌寒くなる日々、布団の中でモゾモゾと蹲る杏月がいた。
寒いのは少し苦手な杏月、弟達と一緒に寝ており、みずきを湯たんぽ代わりに抱き締めて寝ていた。
7時頃、メイドはいつもの様に杏月達を起こす、弟達には容赦なく布団を剥ぎ取るが杏月に関しては優しく揺すって起こす。
「杏月様、起きて下さい!朝でございますよ」
いつも僕はーーーーーー
いや……私は、この可愛らしいメイドさん達の優しい声色でいつも朝を迎える。
いつも優しく起こしてくれる従者さん達は相も変わらず私を撫で回す……。
でもその優しさに私もまた、微笑んでしまう。
少し複雑な私達の関係……。
でもともき達にも恵んだ環境を用意して下さる照之様が好き……。
こんな事、恥ずかしくて中々言うもんじゃないんだけどね……でも口で伝えないと分からない事もあるもんね……てへへ。
自覚すると少し恥ずかしい。
私は歩きながらつい苦笑いを零してしまった、皆と挨拶を交わし朝食を取る部屋に行くと照之様がいつもの笑顔を私にくれる。
「おはよう、杏月」
「おはようございます、照之様」
んっ……今日は機嫌がいいみたい。
今、目の前にいるこの人は、皇帝陛下様と言われる貴族の御方。
普通……貴族の人や富豪の人と出会えるとは普通は思わないよね??私も思ってもみなかったし、そんな余裕は無かった。
目の前で凛とした御姿の黒髪で清楚な印象のイケメンさん、元男の自分から見てもパーフェクトという言葉が一番しっくりくるであろうこの御方。
学校の殆どの人が十全十美で素晴らしい御方と謳われ、様々な人から憧れを抱く照之様に何故か好かれた私……。
以前までは笑顔を余り見せないクールビューティーな方と噂された方も……今は私の前では目が合うだけで優しい微笑みを浮かべ私に笑顔をくれる。
その優しい眼差しにまた、私も自然と笑みを零してしまう。
ご飯を食べて学校に向かう時、必ずメイドさんに着せ替えをしてもらうのは嬉しいのだけれど……いつも私にくっついて離れない。
みんなそう……私の周りにはくっつき虫が多くいる。
それでも、みんな優しく受け入れてくれる人達がいて私は幸せです。
そう思うと自然と笑みが零れてしまう……。
ん……??あれれ??
なんでかな……??メイドさんは私が微笑むと俯いてしまうのだろうか……。
未だに謎の一つなの。
みんなそう、私が笑うと皆一同に俯く現象に何か粗相をしてしまったのかと不安になる。
それに私は不安になると顔に出やすいタイプらしい。
メイドさんは優しく私の頭を撫でて抱き締めてくれる。
そして少し変わったのは私もそう……従者の方や学校の同性の友人の方に甘える様になった事。
日常と化してきた一連の行為を無事終えると照之様と共に学校に向かう、高級車に乗る時いつも緊張して車に傷が付かない様にゆっくり乗車する私。
静寂に包まれる車内、それでも照之様は外を眺めているも私の手を握って離さない、照之様を見つめているとたまに目が合うも直ぐに逸らしてしまう。
そんな才貌両全のような照之様にも悩んでいた頃もあったとか……。
私にしか見せないお姿があった、そんな事を知っているとつい乙女心??みたいな物が……私の鼓動を自然と加速させる。
それなのに、いつも凛と神々しい御方もたまに見せる寂しそうな一面を見せられてしまったら……誰だって惚れてしまうと思うの。
私が性別を変えてからもう数ヶ月が経ち、最初は苦手だった違和感にも慣れてしまい……人間の順応性がたまに憎いと思った時も少なからずあった。
この御方の御傍に仕えてから私の私生活は劇的に変化した、前は中学校も1年生の前半までしか行けなかった為、それまでは家でお父さんに虐待されるか……弟達の安否の事ばかり考えていた日々。
辛かったけど……弟達がいたから頑張れた。
でも…………今は独りじゃない、私を気にかけてくれる多くの存在がいた。
学校の教室に着いた時、私の席の前にいる2人の大事な友人がいる。
それは、沙霧様と愛里菜様。
形はどうあれ大事な方々、いつも私が困っていると助けてくれたり色々な話をしてとっても楽しく、充実した学校生活になっていった。
2人は楽しそうに出掛ける計画を話してるお姿を見ていると笑みが零れる、楽しそうに話をしているその光景を眺めるのが実は大好きだったりします……。
沙霧様と愛里菜様の首元にお揃いのネックレスが輝く。
私も普段からこのお高そうなネックレスを身に付けている事が多い。
他愛もない朝の会話を済ませ授業を済ませる、よくわからない授業を熟し色々な作法をする勉強する。
お昼は大体決まった人達と食堂に向かう、食堂に向かうとアリシア様がいつも分かりやすい場所に座っている。
いつも私が来ると凛としたお姿が一変、美しい笑顔に変貌する。
「あら、杏月じゃない。こっちに座ってもよいのですわよ??」
「はい!もちろんです」
私がそう言うとアリシア様は嬉しそうに頷く、この方も照之様と同様に完璧なのにたまに私にだけ見せる影に私は全力で答えたいと思いたい程の美しいお嬢様。
沙霧様が言ってたけど昔はこんなに笑っていなかったとかなんとか……。
でも、今は私がいる時は比較的に笑顔になる事が多くなったみたいなので少し一安心する私。
食事をしながらたまに会話を挟む、食事を終えてアリシア様、沙霧様、愛里菜様と雑談してると近くにいた照之様とまた目が合うと嬉しそうに笑ってくる。
こんなにも温かな空間に入れて本当に幸せ……。
以前は想像もしなかったこの現状に……それでも未だに蘇るあの嫌な日々が脳裏にこびり付く。
「あの、杏月さん!!少しよろしいですか??」
皆がいる中、私の心は少し憂鬱な気持ちになっていると背後から男性の声が聞こえる。
周りの人達は苦笑いしていると私も声の主の方に振り向く。
「はい……どうしましたか??」
「はい、お休み中に邪魔してしまいこの無礼をお許し下さい。お伝えしたい事があるんです。放課後、裏庭でお話があります!来て頂けないでしょうか??」
彼はそう言うと膝を地べたに屈み最大限の敬愛する態度を示すと私はまたかと苦笑いしながらアリシア様の方を見て助け船を求めた。
「もう、杏月たら……返事は決まっているわよね??」
アリシア様はため息まじりにそう言う。
もちろんと私は頷き、彼に伝える。
「お気持ちは嬉しいです。でも私にはあなたの気持ちには答える事が出来ません……申し訳ございません」
私は頭を下げた。
私は頭を下げるのは得意だ、多分お父さんに支配されていた時の名残なのかもしれない。
それでも私にはお仕えする人がいる、だから今は――――――
彼にそう伝えると屈んでいた身体を上げた。
「そうですか……杏月さんに思われる方は幸せ者だな!ははは、ありがとうございます」
彼は笑顔でそう言った。
満足げに去って行くのを見て険悪的なムードではないことにホッと胸を撫で下ろす。
最近は落ち着いてきたと思っても何故か誘いが止まらない告白。
私は苦笑いを零すとアリシア様が腕にくっついて不満を零す。
「相変わらずモテますわね……」
「もう、茶化さないで下さい!アリシア様の方がモテる癖に……」
そう、私にぴっとりくっついてくるアリシア様は本物のお嬢様。
私なんかより遥かに才色兼備で妖艶な御方、私が同性でもドキドキする人の1人……。
仲良くなった人はみな美人さんで私は御傍にいてもよいのかと思ってしまう方々ばかり。
私はいつしか暗い表情が表に出ていたのかもしれない。
そんな私にアリシア様は静かにひと抱きした後、口を開く。
「そんな顔は杏月には似合わないことよ……??さぁ食事も終えた事だし戻りましょ??」
「はい、そうですね……!!」
私は図星を付かれるも頷き、皆と一緒に教室に帰った。
煌びやかな廊下を通り教室に向かう。
他愛もない話をしながら過ごす憧れた日々に、私の心は静かに喜びが舞い踊る。
こんな優雅な一時をくれた照之様には言葉では言い表せない程の気持ちがいつも募りに募る。
ちらりと照之様の方を振り返ると楽しそうに霧崎様と仲良く話をしていた。
今までが噓のように、煌びやかな人生を私に与えてくれた照之様……。
こうして仲のいい友達と話して、また何処かに行く約束して、そんな平凡な日常が私はとても好きでとても気に入っている。
午後の授業、ぼーっと外を眺めて思った。
もし、こうして普通の学校に通っていたら……あの人は元気でやっているだろうか??
男なのに女っぽい私に唯一普通に男友達の様に接してくれた。数年前の友人をいつしか思い出していた。
そんな事を考えていると少しばかり温かい教室に私はいつの間にかウトウトしていた。
学校を終えると大事な友人達と話し、照之様と車で暫しの雑談をする。
屋敷に帰るとともきやゆうじ、それからみずきに従者のみんなが住んでいる場所に帰る。
当たり前のような家族みたいな形……。
規模は違い過ぎるけど……みんなと過ごす一時がとても居心地がいい。
今日も平和で平凡な私の日常の一時を楽しみ、大事にする。
隣にいる皇帝陛下様と言われる凄い人と一つ屋根の下で寝ている事は色々と凄い事なんだと、私ですらそう思う。
それに今は妻候補なだけであって、どのような結果でも受け入れる覚悟は心の片隅に今は閉まって置きましょうか。
今は、大切な方々との時間を共有出来て嬉しいです。
「杏月が可愛い!!」
「杏月の可愛い姿がもっとみたい!」
と思った方は是非評価をお願いします。
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