休日と招かれざる客
朝6時頃、杏月は弟達よりも先に目を覚ました。
昨晩の出来事を思い出してしまい、杏月の顔は紅潮させる。
杏月は自分が男だと分かっていても、その細い手や幼い身体を目をやると溜息をつく。
僕が1番わかってた。男なのにこんな小柄で女の子みたいに細い手足……。お母さんはいつも言ってくれたよね?とっても小さくて可愛いって言っていつも撫でてくれた。僕は今、性別のその壁の向こう側に行こうとしてるんだよね……。
杏月は自分自身の四肢を見る、右腕を天井に上げて細い腕を眺めた。
そんな事を考えている杏月に、目を覚ましたともきが朧げな瞳で薄目を開く。
杏月の方を静かに視線を送り見守っていると、朝から自分の腕を眺めたり触ったりしてる杏月を観ながら思った。
姉ちゃんが本当の姉になるんだよな……。普段は気に掛けなかったのに考えると、変にドキドキして不思議な感覚になっちゃうな……!それに少し寝癖がある姉ちゃんもまた可愛い!!サラサラな黒髪も相変わらず、綺麗だ……。
ともきはそんな事を思いつつ、息を潜める。
杏月は上半身をベッドから起き上がると長い髪を解く様に何度か撫でるその姿に、ふわふわした気持ちになるも再び眠気に誘われたともき。
朝7時が回り朝食の時間になると、杏月がいる部屋の専属メイドが起こし来る。
コンコンと扉の方から小さく音がすると、メイドは部屋に入る。
「あら、杏月様!起きてらっしゃったんですね。おはようございます」
「は、はい!!ちょっと早く目が覚めてしまったもので……。おはようございます」
杏月は苦笑いを零していると、メイドは弟達を次々起こす。
「ともき様、ゆうじ様、みずき様、起きて下さいませ!朝食のお時間です。照之様がお待ちですので早く起きて下さいませ」
メイドは中々起きない3人組の薄い毛布を容赦なく剥ぎ取る。
メイドは3人が起きたのを確認すると支度の用意をする為、服が置いてある部屋に向かって行った。
「ほら3人ともご飯の時間だよぉ??一緒に行こ??」
「うぅ、無慈悲な……。おはよ杏月姉ちゃん」
「おはよー、おねぇーちゃん」
「おはよぉ、おねぇたん」
「おはようともき。おはよゆうじ。おはよみずき」
それぞれに挨拶を交わすと、一緒に朝食を取る部屋に向かう。
ともきはぼーっとしながら向かい、ゆうじは大きな欠伸を零す。
みずきは眠たそうな眼をしながらまた夢に落ちそうになっていたのを見て杏月はみずきの手を引いていた。
朝食を取る部屋に近付くと、食欲をそそるいい匂いがより一層増した。
その匂いに空腹に満ちた体は、有無を言わないほど欲してした。
皆一同、席に着くと照之に朝の挨拶する。
「おはようございます、照之様」
「おはようございます」
「おはようございます」
「おはよーぅ」
「ああ、みな、おはよう!!杏月にはもう言ったのだが、今日はデパートにでも行きたいと思うが、ともき達も来るか??」
照之は朝の挨拶を交わし弟達3人に尋ねる。
「は、はい!是非。良かったね杏月お姉ちゃん?最近外に出てなかったし、久しぶりにデパートのクレープでも食べたいんじゃないの??」
「あははっ……そうだね。久しぶりだしクレープは食べたい!!それにしてもよくわかったね!」
杏月は何故わかったの?!と言いたげな表情をチラッと覘かせた。
睦まじい光景に照之の口元は何時の間にか釣り上がる。
食事が用意され照之の「いただこう」と掛け声で一斉に「いただきます」と言い食べ進める。
ふぅはぁ……!!朝からこんなご飯が食べれるなんて、本当に幸せ……。スープも美味しい!!はぁうぅ……幸せ。
杏月は食事を堪能していると、弟達も美味しいと笑顔で言い合っていた。
照之も食事を進めて不意に杏月に目を配ると、髪を耳に添え食べ物を口にし食べる度に目を瞑りその至福の時を満喫してるのが分かると、照之は微笑み見届けた。
――――――――――――
杏月は朝食後、歯を磨き顔を洗い終わると自室でゴロゴロしたりまったりしているとメイドが部屋に入る。
「皆様そろそろお時間です。ですのでお着替えの方済ませて下さいませ。杏月様は違うお部屋にお召し物がございますので、こちらにどうぞ」
「はい」
杏月は頷きメイドの後を追いかけ自室を後にすると、メイドは部屋に着くなり口を開いた。
「杏月様?今日は照之様もお忍びなので派手な衣装ではなく普通の格好とのことでしたので……たまにはスカート以外の物に致しましょうか??」
「はい……。特に服には詳しくないので、メイドさんにお任せします……」
何故だろうか、メイドのキラキラする瞳を目の当たりにする杏月は、思わず後ろに後退り引き気味に返答する。
メイドは即座に服を脱がせ、下着から上着まで全てを熟す。
ブルージーンズを履き上部はダブルジャケットに白のノースリーブカットソーを胸元から覗かせる。
黒のジャケットは腹部辺りにベルトが巻いておりウエストを強調させる、ヒラヒラのスカートのような波を打つジャケット。
ロングヘアの髪はあえて弄らず少し緩いフワッとしたカールが掛かるのみ、杏月は姿鏡で自分の姿を目の当たりにする。
鏡に映るおしゃれな格好をした幼い姿の自分、どれも杏月にピッタリに合わせてある衣類は浮く気配はなく、杏月自身の美しさを引き立てる。
口は淡いピンクのリップを塗られた自分自身に、これが本当に男であるはずがないと認識してしまう程の容姿に変貌していた。
元々女性型の端正な顔立ちに小柄で細身の身体、思いのほか可愛いと思ってしまう自身が映る鏡に自惚れしてしまった杏月。
杏月がボーっとして鏡を見ている姿にメイドがうっとりした表情で杏月の姿を堪能した後、杏月の手を取り玄関に向かう。
男性陣は既に準備が整い、杏月を待っていた。
照之はいつも着ている豪華な装飾の衣類とは違いラフな格好でいた、ジーンズに落ち着いた色合いのパーカーの上着から羽織る様にチェスターコートを着こなす。
ともき、ゆうじ、みずきは余りオシャレには関心もなく、普段着で仲良く3人ともジーンズにパーカーを羽織って話し合っていた。
「ゆうじ、デパートなんて久しぶりだな」
「うん、あんま行ったりしないからね。それに行くって言っても、おねぇーちゃんとしか一緒に行ってなかったもんね」
「確かに。でもさ、あのクレープをほうばっている杏月姉ちゃんがまた可愛いんだよな~」
うんうんと3人組は杏月について雑談を楽しんでいると、照之もその話に聞き耳を立てふむ……と顎に手を当て考える。
そうか、クレープか……。乙女みたいに甘い物が好きだなぁアヤツは……!まったく、本当に可愛いやつだなぁ。
微笑ましく思った照之はうむうむと1人で納得していると、階段の方から杏月は姿を現した。
メイドに手を引かれゆっくりと下の階に降りてくる杏月、弟達も杏月が来たと思い視線を向けると全員が杏月のいつもとは違う可愛らしい雰囲気が一転して大人の雰囲気を醸し出しお淑やかな姿をみな、目のあたりにする。
杏月は皆の側に寄ると、声を掛ける。
「皆、待ちました??僕はここまでオシャレにならなくても良かったんですけどね……」
えへへと困ったような笑みを浮かべると、隣に仕えるメイドが食いつくように杏月の顔に迫りくる勢いで近付いて言い始める。
「いいえ!!杏月様はしっかりとおめかししなければなりません!見てください杏月様。杏月様の美しさに、男性陣は固まっておられます。可愛い人が可愛くするは当たり前なのですよ!?もうすぐ変わられるのですから、女性らしくなさりませんと」
メイドから伝わる燃え滾る気迫に押された杏月は素直に頷いて聞いていると、メイドが発言する度に男性陣は終始無言で頷き、同意していたのだった。
それから一同はリムジンに乗り、デパートに向かう。
リムジンは内装が豪華に装飾され歴然たる富豪オーラを放っている中、左側には専属メイドと執事が座りその隣にともきゆうじと座るのだが、みずきというと相変わらず杏月にベッタリしていた。
後ろの3人がけの座席は照之と杏月が座っておりみずきは絶賛、杏月の上に跨って抱き付いていた。
こらこらとみずきを叱るもその行動は、真逆でみずきの頭を優しく撫でる姿に照之もそわそわしてしまい、つい割って入る。
「なぁみずきよ……?そちはちぃと杏月とくっつき過ぎではないか??」
「いいんだもん!!おねぇたんとこうしてると、あんしんするんだもん!!」
照之の言葉にみずきは駄々をこねながら言うと、杏月もみずきを宥めながら言う。
「照之様。みずきは昔、お父さんに蹴られた事があってですね……それで僕がこうして上げると安心してくれるんです。でもみずき?こうゆう事はお出かけ中はダメだよ??家ならいつもしてあげてるんだから、ね?わかった??」
杏月は照之に申し訳ないような複雑な表情で言い、みずきの方も釘を指しておく。
「おねぇたんのにおいおちつくのぉー」
みずきはうっとりと杏月を抱き締めていると、ともき達も参戦する。
「こらみずき!お姉ちゃんに迷惑掛けちゃだめだろ??俺だってしてもらいたいんだからな!!今は大人しくしなさい」
「そうだよ、ともニーの言う通りだ!!僕だって杏月おねぇーちゃんを抱きしめたいんだからな!!」
「そうです!!みずき様、私も杏月様に撫でられたいのでございます」
「ほっほっほ……。年甲斐もないのですが……爺にもお1つ、お情けを頂けますでしょうか??」
ともきやゆうじも言うと続くように専属メイドと爺やまで迫り来る始末に照之は一喝いれる。
「おい、そのくらいでよせ。そしてみずきよ車は静かに乗るものだぞ??デパートに着いたら甘えればいいし、家に帰ったらもっと甘える事ができるのだからその辺にしておけ。それにお主ら……みな、何を考えておる!?」
照之の怒る口調で言うと直ぐにみな静かになり反省をする、爺やだけが「坊ちゃまだって車で……」とブツブツ独り言を吐き出していた。
杏月はその楽しそうにする雰囲気に満面の笑みを車内に零すと、先程とは打って変わって皆の視線が不可解な方向を見つめていたのだった。
――――――――――――
リムジンがデパートの入口付近に停車する。
リムジンが停車するのもあり、周囲に居た人達は好奇の目で見つめていた。
リムジンは止まると運転手が降りてくると、ドアを開けて運転手は口にする。
「御到着でございます」
その言葉を合図に一同降りて行き、最後の方に照之と杏月も降りる。
執事やメイドが居ると一際目立ち一般人の視線は増すばかり、ともき達も楽しそうに3人で話しているのを横目に杏月はホッと一息入れ、皆と一緒に中に入る。
「姉ちゃん、俺ら本屋とかゲーセンでゲームとかしたいんだけどいいかな??」
「ほっほっほっ。でしたらわたくしが一緒に向かいましょうぞ!!坊ちゃま達は自由に散策して下さいませ。12時に食事エリアに集合との事でよろしいでしょうか??」
「そうだな。爺よ、ともき達をよろしく頼むぞ」
「はい、心得ております」
「爺やさん、ともき達をよろしくお願いしますね」
照之の言葉に杏月も続いて爺やに微笑みながら言うと、爺やはスッと出したハンカチで額の汗を拭きながら笑顔で「もちろんです」と頷く。
それぞれが別れ、ともき達は絶賛、本屋を巡回していた。
ともきはそれぞれ自分の糧となる知識があるか、勉強・資格コーナーを真剣に見ていた。
ゆうじとみずきは爺やと一緒に回ってした。
一方で照之の方は、メイドが2人の後ろに付き添いながら杏月の服を2人で探していた。
「照之様、こちらなどいかがでしょうか??」
「うむ、こちらもどうだ?」
照之とメイドは絶賛女性物の洋服売り場にて、どれが杏月に似合うかお互いに杏月の前に服を当て言い合っていた。
杏月は只々着せ替え人形に成り代わっていた。
「あの~、お2人とも……。僕、トイレに行きたいのですが……行って来ても……??」
「ああ。行っておいで、それまでに杏月に似合う洋服を探しておくぞ!!」
杏月にそう言うと、メイドも元気よく頷き2人して洋服を選びを再開させた。
杏月もその光景に苦笑いを零し、その場を後にして手洗い場に向かう。
現在まだ男の為男子便所に入ると、そこにいた男達は直ぐに股間を抑えながら絶叫して男子便所を勢いよく飛び出していった。
それを見た杏月は自身の女姿にあっ……と察し直ぐに出ると、身体障害者のトイレに駆け込む。
あわわ。どうしよう……こんな格好で用を足すのもあれだし……。ここは便座に座って……っと。
杏月は悩ましい環境下において最前を尽くし、便座に座る。
用を足して手を洗いハンカチで拭いてトイレを出る。
だが杏月の目の前に、杏月からしたら見たくも、会いたくもない忌まわしき存在が立っていた。
直ぐにこちらに来るのが分かり、杏月はその場を去ろうとした、しかしその男の方が足は速く杏月の腕は掴まれた。
「よう、杏月。こんなに着飾って可愛くなって……。お父さん一瞬見間違ったよ!」
「離して……ッ!!お父さんは家族を売っておいて、今更のこのこと何をしに来たのさ?!」
杏月は怒りの余り大きい声で反論すると、父親はにこやかな表情が一転すると憎悪に満ちた表情で思いっきし杏月の頬を叩いた。
パンッ!!!!と乾いた音を気にそのフロアは沈黙が襲う。
「お前ッ!!誰に向かって口を聞いていやがる!?これは再教育が必要だな!!こっちに来い」
そういいながら杏月は蹴り飛ばされ、勢いよく後方に吹き飛ばされる。
父親は杏月の顔に張り手を飛ばした後、髪を荒々しく鷲掴み引っ張る。
その光景は、変質者が幼気な少女を襲っている姿に、その光景を目にした人は直ぐに近くのスタッフに駆け寄った。
杏月は只々力なく倒れ、胸ぐらを掴まれながら引きずられていく。
非常階段の方に父親は向かう。
強引に床に這いずり回されながら引きずられて行く杏月の姿に、周りにいた人は気の毒そうな神妙な面持ちで、関わらんとしまいと俯いていた。
非常階段に着くと、父親は杏月の首を力強く締める。
「かっ……!?く……くる…………しぃ……ぃ……。だれ……か…………」
悶え苦しむ杏月は何とか息をしまいと、自分の首を絞めてる手を剥がそうと必死に抵抗する。
「お前は……まだ殺されてないだけマシと思え!!なあ、このクソアマがぁ!!!!」
ドスの効いた父親の声に杏月は涙を流しながら踠くと、父親は懐から隠し持っていた刃物で杏月の服を剥ぎ取る。
胸元を顕になり不快な視線を全身が感じ取りながら杏月の意識は酸欠で遠退く。
「ハッハッハッ!!!!テメェ!?傷が治って来たみたいだな?ならもっと治らねぇような傷にしなきゃな??もう、聞こえねか。意識が無くなるまでこの首を締め上げてやるよ!!!!!!アハッハッハッハッハッハ」
非常階段には父親の醜い叫び声だけがこだました。
杏月は為す術もなく、死を悟り意識が薄らいで来たその時――――――。
非常階段の上の方から聞き覚えのある声が、勇ましい雄叫びを上げて近付いてくる。
「それ以上ォォォオオォォオォオォ!!姉ちゃんには触れさせね……ッ!!!!」
勢い良くともきは上の階から飛び降り、勢い任せに階段を駆け降りた。
父親の横腹に鋭い足蹴りを一撃お見舞いする。
蹴られた父親は勢い良く壁に激突すると、転がりながら下の階にゆっくりと落ちて行った。
杏月は絞められた手が離れた事で、呼吸が出来る様になり酸素を入れまいとするも喉が疼く。
「うっ……。こきゅ……こきゅ……。はぁ……はぁ……とも…………き??」
弱々しく放たれた言葉にともきはいち早く杏月の側に駆け寄ると、ともきは着ていたパーカーを脱ぎ杏月のはだけている体に服を掛ける。
「姉ちゃん……??姉ちゃん……??大丈夫か?!おい、姉ちゃん!!!!」
「ともき様……ご心配なさらず。少し酸素不足で朦朧としてるだけです。身体に傷や損傷がないか責任を持って杏月様をお助け致しますのでご安心をッ!!」
ともきが今までに無いくらいの速さで駆け下り瞬発的な力強い一撃に、爺やは内心驚きを隠せなかった。
今、物凄い血相を変えて杏月に声を掛ける少年が、あれほどの力を瞬発的に一瞬だったが発揮出来た事に関心していた。
直ぐに爺やは杏月の脈拍を測り外傷が無いか簡単にチェックしていると、照之も遅れて駆けつけてきた。
慌ててやってきたのが分かるほど血相を変え、照之とメイドは非常階段に集まる。
「爺が仕留めたのか??」
「いえ、ともき様でございます」
「お前がしたのか……良くやってくれた。申し訳ない……俺らが一緒についてやってればよかった……!杏月、すまない」
照之は壁に凭れ掛かっている杏月の隣に膝を折り、謝罪すると杏月は震える声を振り絞るように話す。
「い、いや…僕が悪いんです。ちょっと痛みますが大丈夫です。ほらこの通り……この通り全然、大丈夫ですから……」
ゆっくりとその場を立とうとして心配させまいと意地を張る杏月に、照之は思わず涙腺が緩んでしまい、何もなかったかと言いたげの弱々しい微笑みに照之は杏月に抱き付いた。
それから杏月は代わりの服をレディース売り場で購入して直ぐに着替えた。
着替え終わり一先ず食事エリアで休む事になった。
その間に爺やは気絶してる父親を警察に突き出し、事情聴取の対処に手を焼いていた。
杏月はメイドの膝枕で横になっていた。
メイドは「杏月様……」と弱く鳴き、悲しい表情を浮かべる度にメイドの頬に手を伸ばし「ありがとぉ」と微笑むとメイドは微笑まれる度にガバッ!!と杏月を覆い被さっている中、照之達は食事を取りに並んでいた。
「なあ、ともきよ。そなたの父親は何故ああも杏月に対して根に持つのだ?」
「あの人はですね、数年前に母を亡くしてからおかしくなってしまったんです。その美しさに母親の様な抱擁力に亡き母の姿が重なったんだと思います……。それに杏月姉ちゃんはそれからずっと暴力を受けてたんです。俺達を助ける為に……」
「それで初めて会った時、あんなに痣だらけだったのだな。それにしても良くやったぞともき!!」
「あれはなんでしょうか?杏月姉ちゃんを助ける一心でいたら力が漲ってきて、爺やさんにたまに稽古をしてもらってたのもあり、難を逃れました。それに姉ちゃんの苦しんでる姿に居ても立っても居られなく、気付いたら体が勝手に動いてました」
「うむうむ。良かった、良かった。俺の杏月が傷がついてしまうのは困るからな」
何気ない一言にともきはハッとなり、直ぐに口にする。
「いくら皇帝陛下様でも、姉ちゃんは渡しませんからね??この俺が許しません」
真顔で言い放つともきに、照之は少し引き攣った顔で「いや、俺のだ!!」と反論した。
2人はそんな話をしていると注文した物を持ち、杏月のいる方に持っていく。
「杏月、お前も食うか?それとも手に取って食いやすいやつにするか??」
「あっ……皆と一緒でいいですよ。お気遣い、恐れ入ります」
先ほどよりはマシになったのか杏月も返事を返して起き上がると、メイドは膝枕から杏月の頭が離れそうになると元に戻して頭を撫で回す。
はぁぁ……。かわゆい……!この生き物はなんとかわゆいのでしょうか。私は至福のひと時でございます。ん~好き好き……!!
メイドは内心ぐへぐへしながら、料理が届くまで無心に撫でるのであった。
皆が集まり食事をしてショッピングの続きをしている内に、あっという間に時間は過ぎ去った。
――――――――――――
深夜11時頃、爺やを呼び出し話し込んでいた。
「杏月の様子はどうだ??」
「はい、首の方に痕が残っておりますが治るとのことです。傷も特に目立つところはなく、内臓も破損もございませんでした」
「ならよかった……。あのまま続けてもいいのかと心配したが本当に、良かった……」
「左様でございます。もし傷にでもしたのら、神乃家の特殊部隊がデパートを制圧していた事でしょう。ほっほっほっ」
「それほどとは……。そうそう、それより話は変わるが爺よ、昼食べた後の食後のデザートの時のアヤツの顔見たか??」
「ええ……なんというのでしょうか、小動物のように可愛らしいお姿で召し上がっていましたね」
「ああ。一時はどうなる事かとひやひやしたが、あの後、思いのほか楽しんでたしな。美味しそうにクレープを頬張る杏月は面妖な姿とは一転、幼く純粋な笑顔を向けて食べるもんだからな……」
「そうでございますね。わたくし事ではございますが、あのお姿は反則級でございます……。この歳になると様々な姫君を坊ちゃまと供に拝見致しますが、あれ程の姫君はそうはいないと思っております」
「はははっ。爺がそこまで気にいるとは良い事だな!!それに俺ももし嫁にするなら、杏月のようなおなごがよい」
「おお!!!!なんと…………!!坊ちゃまが遂に恋をするとは!?……ですが、あれだけの母性溢れる麗しき姫君です。間違いなく神乃家は安泰でしょう!!」
「はははっ、そうだな。アヤツなら結婚も良いのかも知れぬな。ほら爺よ、たまには飲もうではない」
照之は自分の呑んでいたシャンパングラスを手に取り爺に渡そうとすると、何処からとなく出現したシャンパングラスに爺やも自分のグラスに注ぐ。
小さくグラスを鳴らし乾杯する、照之と爺やは杏月の話で盛り上がっていたという。
朝になった時、爺やの姿はなく照之の部屋からシャンパンボトルやワインボトルの残骸が6本程床に転がっていた。
部屋中が酒臭く、入って来たメイドは直ぐに窓を開け換気すると、部屋の清掃をするのであった。
「杏月が可愛い!!」
「杏月の可愛い姿がもっとみたい!」
と思った方は是非、好評価をお願いします。
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