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淡い花と空の絵

君は海にそそぐ川のように

作者: 風奈多里


「あ〜。気持ちいい〜。」


安達エミは、川に自分の手を入れて、水の感触を確かめていた。


ここの川は、エミの家のすぐ近くにある。もう少し歩いて行くと海が見える。


暑い夏は、海で泳ぎ、その後に冷たい川の水で体を流し、海岸の砂や塩分を洗い流す。


エミは、小さい頃からここの場所が大好きだ。




家の近くには、小学校、中学校、高校と、続けてある。


田舎にしてはとても便利な地域に住んでいる。自然もいっぱいで、エミはのびのびと育った。




エミは、現在17歳。住んでいるところが田舎すぎるので、憧れていた花のセブンティーンという理想とは、はるかにかけ離れていた。特に、高校の制服がとてもダサいことが不満であった。




「さてと、学校に行くか〜。」


エミは、川から離れ、学校に向かった。朝は、なんとなく気分が乗らない。なので、近所の冷たい川の水に触れて心をシャキッとさせる習慣があった。




「おはよ〜。」


「おはよ〜。」


朝はまだ眠いので、かったるい表情で挨拶をするエミ。






そんなエミにも好きな人がいた。


となりのクラスの田中次郎くんだ。


次郎は、この狭い田舎ではかなり有名な田中一族の次男坊。


どうして有名かというと、とにかく大きな家に住んでいて、とにかく頭が良い家族であるからだ。顔立ちも整っている。ここら辺の村では、知らない人はいない。


高校のなかでもかなりの有名人。成績優秀、イケメン、将来有望と声が上がり、女子からはキャーキャー言われている存在であった。


それに比べてエミはかなりの田舎娘。次郎とお近づきになるチャンスなど、もはや無い。


でもエミは、毎日となりのクラスを廊下から薄目を開けてチェックし、憧れの次郎くんの存在を確認していた。


そんなある日、エミにとっては奇跡のような出来事が起こった。


帰り道、歩いていると、たまたま目の前に次郎くんが歩いていたのだ。

いつもの帰り道は、親友のカナと帰るのだが、今日はたまたま1人だった。


こんなチャンスはもう二度とないと思ったエミは、次郎の後ろに付いて歩いて行った。


するとすぐに感づかれたのか、次郎が後ろを振り返った。


エミは、ドキッとして心臓が飛び出そうになった。


次郎にじっと見つめられ、怪しい目をされてしまったエミは、無言で家まで一目散に走って逃げて行ってしまった。


付いて行ったのがバレた…と不安になったエミは、もうストーカーみたいなことはやめようと心に誓った。




悲しいことに愛しの次郎くんとの接点は、その後も無かった。あっという間に季節も変わって行った。


しかし、人気者の次郎様の噂はどんどん回ってくる。女子たちがキャーキャーと話しているのを小耳に挟んだ。


「次郎くん、東京の大学に行くんだって〜。いいよね〜。私なんてそんなお金ないって親に言われたよ〜。そんな頭もないけど〜。あはは!」


「なんかすごい夢持ってるらしいよ〜。かっこいいよね〜。」


どうやら、都内の名門大学に進学し、入りたい大手企業があるらしい。そこでは、やりたいことがあり、すでにそれに向けての勉強も進めているとのこと。


話したこともない次郎くん。でも、本当に素晴らしい人だとエミは思い、憧れた。




しかし、その後も変わらずエミと次郎の接点は、全く無いまま卒業式を迎えた。次郎は人気者なので、卒業式もお話をするチャンスなどないだろう…でも少しでもお近づきになりたいとエミは思っていた。


卒業式の帰り、案の定、次郎はいろいろな人に囲まれて、先生や女子や友達たちに引っ張りだこであった。


「帰ろ〜。」


いつものように親友のカナが声をかけてくれた。


「うん帰ろう〜。」


エミは、いつものように帰った。






エミは、高校を卒業後、3駅離れたところにある大学へ通う予定だ。もう次郎とも会えることはないだろう。エミには夢などまだない。都内へ出るなどの志もなければ、目標も一つもない。人生に対して、なにも定まっていない状況だ。




帰り道、エミは、カナと別れてから川へ向かった。いつものように川の水に触れて、心を落ち着かせる。


「次郎くん、すごいなぁ…。」


カナは、高校生活を思い返してみると、次郎くんのことばかり考えていた。話したこともない次郎くん。でも、カナの心の中では、とても大切な唯一尊敬できる憧れの人であった。


きっと夢に向かって人生を進んで、綺麗な女の人と出会って結婚したするんだろうな…と考えた。


「はぁ…。」


きちんとした目標がある次郎に対して、何もない自分。少しため息が出た。


今日もいつものように気持ちがいい川のお水であった。海に向かって勢い良く流れる川の水。まるで、新しい人生を進んで行く次郎くんのようだとエミは感じた。


「あ〜。気持ちいい〜。」


エミのとろけるような顔をして、川の水の感触を確かめた。


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