60 好きなジャズ名盤紹介7(ソニー・クラーク)
まず、前回のエッセイで「次はヴォーカルを紹介します」と書いたのですが、すみません、嘘です。いえ、紹介しようとは思ったのですが、まずアニタ・オデイがうかび、次にヘレン・メリルが浮かび、三番目にサラ・ヴォーンが浮かんだところで、他の方に紹介するには聴いているアルバムの数が少なすぎるな、と感じたのでした。
これが一番好きというアルバムもまだ決めかけている現状。
ヴォーカルは是非とも紹介したいところなのですが、もう少し勉強してからね。
それで今回も、まだピアノジャズの紹介を続けちゃいます。そろそろ楽器を変えろよ、トランペットは? サックスは? ジャズギターは? という不満の声が聞こえてきそうなのですが、まあ、ピアノの名盤を紹介されて損はありますまい。
それで今回のテーマは「ジャズ喫茶っぽいジャズ」です。
ジャズ喫茶ってのは、スピーカーでジャズを流している喫茶店ですね。60年代には、おっかないマスターがいて、ジャズの名盤を大音量で流していて、当時はこういうところを拠点にして、学生たちが集合して、学生運動をしていた。
三島由紀夫対全共闘の話などが有名ですが、ああいう環境下で、学生たちはジャズ喫茶に通っていたのでしょう。
僕はその時代のことをマスターから聴いても、勉強不足でよく分からなかったのですが、その後に色々読んで、当時のジャズ喫茶の雰囲気を感じ取ろうと務めました。
僕がジャズ喫茶に行くようになったのは最近ですから、お客さんのほとんどは60代以上のおじさんだし、以前書いたことですが、ジャズファンの高年齢化、若者のジャズ離れというのは尋常ではなく深刻ですので、ジャズに興味のある若者というだけで優しく迎え入れてくれました。
それで、多くのジャズファンが「ジャズ喫茶っぽい」と感じるジャズで、まずあげられることが多いのが「ソニー・クラーク」というピアニストのジャズです。
僕は、まずジャズ喫茶を「おしゃれな大人の喫茶店」というぐらいにしかイメージしていなかったので、正直「ソニー・クラーク」と言われて、ああ、そうだな、とまでは感じません。
僕の行った限りだと、ジャズ喫茶ってお店によって雰囲気が大分異なっていて、あそこはああいうイメージだよね、と言われるとピンとくるのですが、ジャズ喫茶全体に対して、一つのイメージを持っているわけではないようです。
ただ、きっと60年代、70年代のジャズ喫茶のイメージなのでしょうね。
それでは、ソニー・クラークの名盤で何を紹介するかというと「ソニー・クラーク・トリオ」です。そして紹介する曲は「朝日のように爽やかに」(「ソフトリー・アズ・イン・ア・モーニング・サンライズ」)です。
そうです。赤と黄色の鍵盤がジャケットになっているやつです。
これは素晴らしい名盤ですね。僕自身は長い間、ソニー・クラークを積極的に聴こうとはしていなかったのですが、(それはおそらく、ジャズ紹介本なんかを読むと、ソニー・クラークが日本でのみ有名で、アメリカではあまり知られていないとかいう紹介が必ずついてきて、当時のアメリカのジャズ界に最大の興味を持っていた自分にはそれが興ざめする事実だったからでしょう)あるときにイヤホンで「クール・ストラッティン」を聴いたところ、
「ん? なにやら癖になるこのリズム感、というか、ねばり?」
ピアノが弾むというより粘るように響いていたのが気になったのですね。それから徐々に魅力を感じるようになっていったのでした。
それでは「ソニー・クラーク・トリオ」の中からもう一曲、紹介いたしましょう。
それは「アイル・リメンバー・エイプリル」です。
しっとりとしていていいですね。
このエッセイ、最近、ジャズ紹介エッセイみたいになっているのですけど、大丈夫でしょうか。まあ、おそらくこのエッセイを読んでいる人の多くがジャズに興味がない、反対にジャズに興味を持っている人はもっとちゃんとしたジャズ紹介本やサイトを検索することでしょうから、よく考えると成り立っていない気もするのですが・・・・・・。
ただ、僕は仲のよい友人にジャズを語るような感覚で、この話をしています。
普通なら相手がこの話に興味がなければ嫌な顔をするのでやめざるを得ないわけですが、このエッセイだとそういうことに注意を払わなくていいので、好きにしゃべれるというわけです。
二回目のワクチンを打って、昨日は発熱と頭痛に思い切り苦しめられたわけですが、午前中のうちは体調が安定していたので、この「ソニー・クラーク・トリオ」を聴いていました。ジャズはやっぱり「詩」だなと感じました。あまり喋りすぎない方がいい。ぽつりぽつりと語られるぐらいがちょうどいい。そして一言、一言の間にわずかな間が必要なのだと思います。言いよどんでいるような。古今亭志ん生の落語みたいな。深入りの珈琲のような味わい深さではソニー・クラークは絶対に外せない。




