57 好きなジャズ名盤紹介3(グレイト・ジャズ・トリオ)
前回のジャズ名盤紹介で、ジャズはわけのわからない演奏を聴き、苦しむことがこそが醍醐味というようなとんでもないストイックな持論を展開した僕ですが(一般によく言われている意見ですが)、勿論、ジャズは本質的には娯楽であり、快楽に他なりません。音楽なのですから楽しむことこそが第一だと思います。
思い返すと僕は聴きはじめの頃、なかなか思ったようなジャズに出会えずに苦しんだのですが、そうした飢えた状態で色んなジャズにふれ合ったことが結果的によかったのか(よかったことは間違いありませんが……)、それとももっと手軽な道すじで楽しいジャズに出会えたとしたらそれはそれで幸せだったのか、今となってはよくわかりません。
ただ、良さが分からず苦しんでいる時間すべてが意味があったかというと首を傾げますし、なによりも、これだ!と思えるジャズに出会った瞬間こそ、ジャズの世界に入門できた幸福な瞬間だったような気がしているのです。そういう点からも、あまり無駄な努力はしてはいけないのかもしれません。
邪道かもしれないけど、あまり苦しまない、近道を選ぶことにしましょう。
とにかく楽しいジャズを紹介しよう。
それが今回のテーマです。
それでは楽しいジャズとはなにか……?
重い雰囲気の、魂の叫びのようなジャズや、難解かつ抽象的で深淵なジャズは、この問いの答えとしてはふさわしくないでしょう。
そこで僕が思い出したのは、グレイト・ジャズ・トリオです。ハンク・ジョーンズがリズミカルでキレのある、しっとりと美しいピアノを弾いています。初期メンバーですと、ハンク・ジョーンズの他に、ドラムがトニー・ウィリアムス、ベースがロン・カーターという大物揃いのピアノトリオなのです。
このグレイト・ジャズ・トリオを選んだ理由はいくつかありますが、一つには「新しい感覚」があるということが言えると思います。
ジャズの感覚に「新」と「旧」があるのか、ということに関しては難しい問題なのですが、こう考えてみようと思います。
現在、ジャズの鑑賞は、モダンジャズの黄金期といえる50年代、60年代の名盤を中心に行われているというのが事実であろうと思います。
その50年代、60年代のジャズの名演が、現在の若者には(これは一応、まだ二十代の僕を含めて言っているのですが)どこか「古めかしく」聞こえていると思うのです。
古めかしく聞こえることが悪いとは思いません。ノスタルジックな気分を味わえるし、骨董的に古めかしさを好む人は大勢います。しかし、ある程度の「新しさ」がないと、もの足らなくなってくる人も多いでしょう。
ジャズの中で、古めかしく聞こえない、現代的な音楽として自然に聞こえるのはいつ頃の演奏からかと考えると、たぶんエレクトリックジャズとか、フュージョンのブームを通過してさらに進化を果たした1970年代後半からだと思います。
だから、僕は現在の音楽ファンには、50年代、60年代のジャズだけではなく、70年代後半以降の名盤も積極的に聴いてほしいと思っているんです。
今回、紹介するグレイト・ジャズ・トリオの「ザ・グレイト・ジャズ・トリオ・アット・ザ・ヴィレッジヴァンガード」というアルバムが収録されたのは、1977年の2月です。
このアルバムに収録されている演奏の中で、何を紹介するかと言うことで悩みましたが、ふたつだけ、紹介します。
一曲目が「ナイーマ」これは「ネイマ」と書かれている場合もあります。二曲目が「フェイヴァース」。このふたつを聴けば、ジャズが楽しくなること、間違いありません。
それでは、よいジャズライフを!




