55 好きなジャズ名盤紹介2(セロニアス・モンク)
ビル・エヴァンスの『ワルツ・フォー・デビイ』を聴いてみてください、と僕は前回、勧めたわけですが、それだけでは発展がないというもの。皆さまには、あっと驚くような体験が必要です。
ジャズにおける驚きの体験とはなにか……?
それは「苦しみ」です。
わけのわからないものに出会った時の苦しみ。そしてこのためにジャズは一般のファンを獲得できず、時々、謎の迫害に晒されてきたのです。
しかし、それは厳密には「ただわけがわからないという苦しみ」ではなかったのです。ジャズファンにとってそれは「今は何なのかわからないけど何かがありそうな予感」であり、さらに「今の自分にはわからないが、なにか得体の知れない、すごいものの気配」だったりします。
ジョン・コルトレーンや、エリック・ドルフィーの演奏を聴いて、多くのジャズファンがはじめ訳わからないと言いながら、無視することができずに、ぐんぐん惹かれていったのはそういう流れだったのでしょう。
今回、ご紹介するのはセロニアス・モンクのピアノ曲です。ところが、これはそんなにわからない演奏ではありません。なぜ、わけのわからない演奏を聴く必要があると言いながら、僕はわけのわかる演奏を紹介しようとしているのか。
それは僕の中で自己矛盾しているのですが、悲しきことかな、ジャズのわけのわからない演奏を聴いて多くの聴き始めのファンは、ジャズファンを諦めてしまうことがあるのです。……それがジャズを狭き門にしてしまった。
ジャズを聴くことが「冒険」だった時代から、ただの「旅行」に変わってしまった時代。
それでも「冒険心」は捨てちゃいけない。
だから、わけのわからない演奏に進む前に、中間的な演奏で、段階を踏もうと考えたのです。
ちなみに僕のいう「ジャズのわけのわからない演奏」は、けっして下手な演奏のことではありません。
セロニアス・モンクは、ハイレベルな演奏を繰り広げる最高のジャズピアニストですが、その独特な演奏が「下手くそに聴こえる」という理由で、敬遠されてしまうこともあります。
独特な演奏、これが一つのポイントです。
ジャズは個性的な演奏がゆるされる、否、積極的に求められている音楽ジャンルです。
セロニアス・モンクの演奏はまさにユニークでした。それでありながら、モンクの演奏は、まさにジャズそのものであり、もっとも偉大なジャズミュージシャンの一人であることを実感させてくれるものです。
それでは、セロニアス・モンクの名盤の中で聴きやすいものをご紹介しましょう。アルバム『セロニアス・モンク・トリオ』です。そして曲は「リフレクション」です。
ちなみにモンクのピアノを聴いた時の印象が「変」から「可愛い」に変わると、もう逃れられなくなってしまいます。
どこかで検索する時は、他のアルバムの「リフレクション」と間違えないようお気をつけください。青い変な絵がジャケットのアルバムのものです。ジャズは即興とアドリブが肝ですから、同じ曲名でも、まったく内容は違うものになります。
それでは、よいジャズライフを!
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