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41 雑談13

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 昨日は、だらだらと思いついた話をするばかりで、オチもなく失敬しました。雑談という回は毎回、大体こんな具合になります。江戸川乱歩の話をしました。せっかくだからもう少ししましょう。


 昨日、述べた「盲獣」は、乱歩の作品の中でも、特に変態的なものになります。要するにエログロなんです。僕は、乱歩の作品の変態的なところが大好きなのですが、この「盲獣」に関しては少々いただけなかった。読んでいてむらむらと吐き気がしてくるような内容でーーまあ、読んだのが中学生、思春期真っ盛りでピュアだったこともあると思いますけどーー読み終わってからも非常に不快だったことを覚えています。まあ、内容はお読みになってからのお楽しみなのですが、その当時は、ぶっちぎりの変態的な内容であることは分かっても、もう一つ、乱歩の変態的な魅力が出ていない作品だという感想を持ちました。

 もっと、こう、なんでしょうね、変態心理って違うと思うんですよ。たとえば「屋根裏の散歩者」だったり、「人間椅子」っていうのは、童心をくすぐるものがありますよね。背徳感であったり、日常からふらりと非日常に迷い込んだ時にふわっと薫るような変態的な夢の世界。それはちょっとロマンチックというか、かなり繊細な世界だと思うんです。それが「盲獣」になりますと、露骨すぎて、エログロぶっちぎりの作品すぎて、変態に力技でねじ伏せられる感じで、ああ、もうこれはあかん、乱歩ってこんなんじゃない、耐えられないよってなった記憶があります。

 しかし、これが紛うかたなき、乱歩の一面だったんですね。おそろしいことに。読者がなんと思おうが作者が満を辞してこういう作品を書いたんだからしょうがない。そういうもんですよね。

 「屋根裏の散歩者」や「人間椅子」が変態心理を繊細に描き上げて、バランス感覚が優れている作品だとしたら、「盲獣」は変態方向にぶっ飛んで、かなり浮いてしまった作品だと思うのですが、僕が今振り返って感じるのは、文豪の長い作家人生の中では、たまにこういうやり過ぎた作品があってもいいんじゃないかなってことです。作品リストの中では決して名作でないけれど、その人のクセが150%出ている作品を読みたくなる日がいつか来るものです。そういう視点で見ると、鎌倉ハム大安売りも捨てたものじゃない。


 とは言っても、作品は読んだのは中学生の頃なので、今読み直すとまた感想が違ってくるかもしれませんね。エログロは好きではありませんが、大人になり、免疫はできていると思うので、さらっと読んで、これはこれでなかなか面白いね、と言えるのかもしれない。


 それで今回は変態心理がテーマのエッセイということなのですが(本当かよ)、江戸川乱歩の「屋根裏の散歩者」と「人間椅子」が素晴らしいことはすでに記しました。ミステリーではないのですが(ある意味、ミステリーですが)谷崎潤一郎の「秘密」という短編が、変態心理を描いたものでは見事です。江戸川乱歩がお好きな方はこちらもお勧めです。江戸川乱歩が好きな方は、谷崎潤一郎もいけると思います。谷崎潤一郎も、探偵小説ファンらしいので、ところどころ探偵小説のノリになるシーンがあって「細雪」の尾道の洪水シーンで、突然、探偵小説くさくなるところがあるのですが、そのギャップが非常に面白おかしく感じられたのを覚えています。


 とにかく江戸川乱歩、谷崎潤一郎、泉鏡花の三人は、いずれの方も耽美な芸術性、豊潤な文学性、卓越したエンターテイメント性を持っていて、三人のうちどなたかお一人でもお気に召した方は、他の二人も味わってみないのはもったいない。お楽しみいただけるのではないかと思います。

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