32 雑談 4
このところ、コロナウイルスのせいで、外出できなくてつまらない。つまらないだけでなく、日に日に不安が高まるばかりで、いつになったら、良いニュースが聞けるのかと、ハラハラしながら、仕方なしに部屋でごろごろしている。
そういうわけで、インドア派になり、執筆の時間はたっぷりある。だのに、この不安のせいか、どうも執筆が捗らない。その代わり、読書は捗っている。
この機会に、僕は学生を対象に、おすすめの本の紹介でもしたいと思う。学生の中には、五月まで休校状態の方もいらっしゃるそうだから、こういう時は、小説を読むのが良いと思われる。
まず、第一に学生の頃、読んだ方が良いのは江戸川乱歩である。僕は、中学高校の頃、江戸川乱歩の作品を読みまくっていた。だから、間違いない。はじめて読む方は、初期の短編をお勧めする。「屋根裏の散歩者」や「鏡地獄」が載っているものがよい。もちろん、少年探偵シリーズもよい。怪人二十面相が出てくる傑作だ。しかし、大人版の乱歩を知らない人は、この機会に変態的な乱歩を思う存分、堪能してみてはいかがだろうか。
第二にお勧めするのは、スタインベックの「ハツカネズミと人間」である。この作品を学生にお勧めするのは、僕が読んだ時、「あっ、もっと多感な時期に読めばよかった……」と思ったからである。僕は現在、二十代を謳歌しているので、まだ感性は若々しいと信じているが、十代の頃に読めば、もっと純粋な心で感動しただろうと思ったのだった。こんなことを書くのは恥ずかしいが、十代の僕はそれはそれは純粋な少年だった。友達と帰るタイミングが上手く合わず、一人で下校している時など、自分の存在が友達にとって必要とされていないのではないか、と思って、止めどもなく涙が伝ったり、些細なことでひどく悲しくなったりしていた。そんな頃に読んだら、この作品は本当に胸をどうしようもかく引き裂いただろうと思う。
第三にお勧めするのは、ドストエフスキーの「罪と罰」である。この作品も、二十代になってから読んだのだが、スタインベックの「ハツカネズミと人間」と同じように、高校の頃に読んだら心酔し切って、きっと寝ても覚めてもドストエフスキー、という状態になったと思う。高校生の頃って、そういう状態になれるものだ。関係ないかもしれないけど、当時マイケルジャクソンが好きだった僕はそんな感じだった。今、ドストエフスキーは好きだが、二十代になると、そういう無鉄砲な憧れ方はなかなかできなくなってきている。その代わり、僕は先ほども記したようにマイケルジャクソンともも○ろクローバーZに心酔した学生生活を送ったし、推理小説では、高木彬光に憧れ、その結果、青森市の看板しかない自宅跡地まで行ってしまったほどだ。それから後は、仏教哲学とジャズにハマったわけだし、そこにドストエフスキーがなかったからといって、僕の人生に大きな損失があったわけではなかったが、そこにドストエフスキーがあったら、また異なる青春の文学ライフがあっただろうことも否定できない。
第四にお勧めするのは、チャールズ・ディケンズの「オリバーツイスト」だ。この作品が、中高大学生にお勧めなのは、それはこの作品が学生が好きそうな世界観だからだ。と言ってしまうと、取りつく島もないが、間違いなく、学生の頃の方が楽しめる。僕は二十代で読んだが、青春時代の読書をしているような気持ちだった。イギリスの雰囲気と皮肉っぽいユーモアがたまらない。コナンドイルのホームズ探偵譚などが好きな人には好みの世界観だろう。
第五にお勧めなのが、カフカの短編集だ。文学とは手強いことも知っておいた方がいい、と書きつつも、それほど難しく解釈しなくてもよいのかもしれない。某出版社から出ているもので、さくっとカフカが楽しめる。
というか、そもそも、このエッセイを読んでいる学生なんて、いるのか……。我ながら、謎めいたことをしてしまった。




