23 黒澤映画について
黒澤明監督の映画「用心棒」のネタバレあります!
今日は黒澤映画について語りたいと思います。現在口がやけに渇いていて、おにぎりの海苔がやけに喉に張り付く感じなのですが、アレルギーなのか風邪なのか、よく分かりませんね。まあそういう状態のまま、おにぎりを二つ食べ終え、甘い珈琲を飲みながら書いています。
黒澤映画を語りたいと思ったきっかけは昨日、久しぶりにYouTub○で「用心棒」のテーマ曲を聴いたからでした。
やっぱり良いんですよね。「用心棒」のあのテーマ曲。すごく好きです。
先に伝えておきますと、僕は黒澤映画の中では「用心棒」が一番好きです。勿論、面白さで言えば「天国と地獄」も面白いし、「乱」も面白いし、「七人の侍」「隠し砦の三悪人」「椿三十郎」「蜘蛛の巣城」「赤ひげ」……、もう黒澤映画なら何でも面白いわけで甲乙つけられないんですよね。ですけど僕は「用心棒」の影響をもろに受けているし、あの作品の世界が大好きなわけで、道などを歩きながら妄想してしまう頻度を考えると、やっぱり他の作品でなく「用心棒」に一番憧れているわけです。
あの作品はジャンルで言うとハードボイルド時代劇というものなのでしょう。原作はダシール・ハメットの「血の収穫」という小説で、おそらく元はばりばりのハードボイルド小説だったのでしょう。
「「用心棒」の筋」
桑畑三十郎を名乗る浪人がふらふらと迷い込んだ群馬の宿場町。そこは二つのヤクザ勢力が拮抗し、毎日喧嘩出入りで死人が出る恐ろしい宿場だった! 片方の勢力は女郎屋、もう片方の勢力は造り酒屋である。しかし、桑畑三十郎は考える。今この街で人を斬れば金になる。上手いこと二つの勢力を同士討ちさせて、両方とも倒してしまえば、この宿場も綺麗になるぜ。桑畑三十郎はチンピラを三人叩っ斬って、自分の腕前を披露し、用心棒を買って出た。巧みに二つの勢力を行き来し欺きながら、喧嘩出入りを白熱させてゆく。その時、桑畑三十郎にとって予定外の出来事が起きる。旅に出ていた卯之助が帰ってきてしまった。卯之助は切れ者の悪党で、ピストルを所持していた!
このあらすじを書きまとめるの、すごく楽しかったです。ありがとうございました。このストーリーの何かが良いって、やはり桑畑三十郎が二つの勢力を上手に騙して、同士討ちさせるというところですよね。つまり謀略です。そして、いざ争いになると物凄く強くて、あっと言う間に敵を叩っ斬ってしまうその腕前の鮮やかさ。これもひとつの見せ場です。僕は時代劇を沢山観ているわけではありませんが、この桑畑三十郎(三船敏郎)の殺陣よりも凄い殺陣は今まで見たことがありません。あっ、続編の「椿三十郎」の殺陣は同じくらい見事ですけどね。
主人公の浪人、桑畑三十郎を演じるのは、黒澤映画の多くの作品で主役を演じている三船敏郎。数ある作品中でもこの役が一番かっこいいですね。黒澤映画の魅力って、脚本、音楽、カメラワークにもあると思うのですが、やっぱり一番は俳優の演技ですよね。リハーサルを100回やるとか色々な伝説がありますが、とにかく俳優たちの真に迫った演技が物凄い。
演技の物凄さなら「天国と地獄」や「赤ひげ」など、他にも注目すべき作品はいくらでもあります。しかしここであえて「用心棒」を選ぶのならば、三船敏郎演じる桑畑三十郎こそ最高です。そして、対決する仲代達矢演じる卯之助が、まさに色悪といった感じで素晴らしい。仲代達矢の首がひょろ長くて着物が似合わず、それを隠すために襟巻きをつけたそうですが、これで色悪っぽい見かけになりました。そして、懐からピストルの銃口を出して、にやりと笑うあの恐ろしさ。
桑畑三十郎の仲間といえば、水戸黄門でお馴染みの東野英治郎が演じる居酒屋の権爺と、隣の棺桶屋だけ。この二人の演技も素晴らしいですね。特に権爺の台詞は癖になります。それと山田五十鈴演じる女郎屋の女将の演技も素晴らしい。途中でこっそり逃げ出す情けない用心棒の先生が、実は「姿三四郎」で三四郎を演じていた藤田進さんという意外な配役。
それと、この作品の何が面白いって、ヤクザたちが見掛け倒しで滑稽なところです。ヤクザだからといって怖すぎない、出来そこのないの集まりのような、そんな情けない集団なんですね。そのぱっとしないところが魅力です。人間臭さが良いんです。臆病なところとかね。特に間抜けな亥之吉が可愛らしいですね。余談ですけど亥之吉、あっけなく死にますね。本当にこんな奴らで良いのかよって感じです。だからこそ、切れ者の卯之助が旅から帰ってくると、空気が一変する。冷たくて嫌な感じ。
余計なエピソードを足しておきますが、僕がはじめて観た黒澤映画は「用心棒」でした。あれは小学生の頃、たぶん六年生ぐらいだったと思うのですが、どうして観ようと思ったのかは覚えていません。とにかくルンルンな気持ちでビデオ屋から「用心棒」を借りてきて、自宅で見ました。ところが、ストーリーがよく分かりませんでした。迫力がすごいという噂でしたから、もっと悪漢を斬ったり、斬られたりするのかと小学生の僕は期待していたのですが、あれは実際にはチャンバラ映画ではなくて、殺陣も三シーンか、四シーンしかないし、毎回、一瞬で片付いてしまうので、そのあたりにがっかりしたような記憶があります。それと録音が悪く、台詞が聞き取れなかったというのも問題でした。それに関しては、仮に聞き取れたとしても、当時の僕には意味は分からなかったと思います。
そんなことがあって、僕が黒澤映画をもっと真剣に観始めたのは、中学生になってからでした。最初に「生きる」を見たのですが、これが衝撃だった。あの頃は僕も純粋でしたから、渡辺課長のああいう真剣な生き方に憧れを抱いたものです。あれから何度も観ていますが、だんだん感動が薄れてくるので、最近はもう観ないことにしました。
これは皆さまに黒澤映画を勧めるエッセイではないのですが、もし興味がありながら、まだ一作も観ていないという方がいらっしゃいましたら、時代劇好きだったら「七人の侍」「用心棒」「椿三十郎」を、ホラー好きだったら「蜘蛛の巣城」「乱」を、ミステリー・サスペンス好きだったら「天国と地獄」「野良犬」を、ヒューマン・ドラマ、感動ものがお好きだったら「生きる」「赤ひげ」をお勧めします。
今日は以上です。




