17 風邪の記憶について
今日はあまり時間がなかったので、小説の投稿はありません。しかし、エッセイは、空き時間にちょろちょろっと書けるので、ほぼ、毎日投稿できそうです。(なんという適当な……)
僕は今、頭痛がしているのですが、頭が痛いから文章を書きたくないということはありません。むしろ、頭が痛い時こそ、書きたいものが増えるものです。そういえば、横溝正史先生の『悪魔が来たりて笛を吹く』を読んだのは、中学生の頃で、ちょうど熱をだして寝込んでいる時でした。どうも、熱が出ると、僕はかえって頭が冴えるらしいです。
ちなみに今、熱はありません。ただ、頭痛がしているだけです。こんな時は、昔のことを思い出します。学生時代、ひとりで旅行をして、電車で名古屋から、三重へ行って、それから、岐阜へ行って、その後に、静岡あたりまで帰ってきました。そこで、熱をだして、宿泊施設の畳の上に寝っころがって天井を見ていた夜のことを。
なんだか、ひどく寂しい夜でした。むしろ、寂しさを噛み締めようとして、ひとり旅をしていた気もしますが、いざ熱まで出てしまうと、旅先ではひどく心細いものです。
和室は、天井の灯りを消しているので、玄関の灯りが、ぼんやりと引き戸の下の隙間から見えているだけです。薬を飲みましたが、頭痛は一向に消えず、ペットボトルを頭に乗せて、冷やしています。それで、買ってきたおにぎりやフライドチキンは……当たり前ですが……吐き気がして、とても食べる気になれず、ビニール袋が薄暗い床に白く見えています。窓の外は、暗くて何も見えません。とても静かです。自分の息だけがすぅすぅと聞こえていました。白い布団は、こんな時、何よりも頼りになるものです。それでも、熱のせいか、布団の間から冷たい風が吹き込んでくるように感じられます。それから先のことは覚えていません。
朝、目を覚ますと、窓の外には富士山がありました。晴れ渡る青空です。頭もすっかり軽くなっていて、痛みはどこかへ消えてしまったようでした。一階の食堂に行くと、パンとスープがセルフサービスでしたので、パンを焼き直して、こんがりさせて、苺ジャムをつけていただきました。オニオンスープも、体に沁み込むように感じました。今まで、こんなに気持ちの良い朝はありませんでした。
僕は、風邪の時の記憶というものは、自律神経が狂うせいか、感受性が鋭くなり、印象がくっきり残るものと思っています。この時のことも、僕は絶対に忘れないことでしょう。
それにしても、頭痛がひどいですね。明日に備えて、今日は早めに寝ることにしましょう。




