慣れない事をいきなりやっても上手くいくとは限らない。
話は進まない
少し短めになってしまいました。
検証を再開しよう、俺自身を把握出来ない事には危険なことに変わりないのだ。
とりあえず自分の魔力について出来ることを把握しないといけない、以前はフィクションの世界にしかなかった魔力という概念、身体についてきた新しい認識さんに期待だ。
体内の魔力を把握する、これは一度魔力だと認識できてからはスムーズに行うことが出来た、ではこれをどうするか?魔法があれば使ってみたい気がするが、まだそんな物が存在するかも判らない、もし使えたとして他の存在に見られていたら今の俺では対処が出来ない。
今の俺、何かあっても手も足も出ません、手足はあるっぽいんだがなあ。
訓練だ訓練、まずは魔力を身体に廻らす事からはじめよう、自分の中の魔力の渦からゆっくりと押し出していく感じ、はじめは細く一部分に、まずは自分の認識できている身体の方の手に、やって見て解る、難しいよこれ。
中が歪んででこぼこになったホースに、これまたヨレヨレの糸を通すような感覚、押し込んでいくと途中でつっかえてそこからなかなか進まない、中にブラシか何かを突っ込んでガシガシと掃除してやりたい気持ちになってくる。
以前の世界で読んだ主人公達もこんな思いをしたんだろうか、いやこちらは現実、この行動の結果に自分の生死がかかってると言っていい、諦めちゃいけない、諦めは自分の寿命を縮める。
再度集中、今度は糸ではなくワイヤーのイメージ、細く、硬く、それでいてしなやかさを持つように、ゆっくりと押し出してゆく、ゆっくり、あ、ダメだ、これ魔力循環させるつもりでどんどん消費してる。
さっきから何か抜けていく感覚がすると思っていた、気が付いたら感じる魔力の残量が二割程度になってしまっている、認識さんによれば時間で回復するらしいのだが、どのくらいの時間でどんだけ回復するかはっきりしない。
中断して一息、魔力は外に放出しなくても動かしたら減る? 自分の身体が魔力に馴染んでないせいで余計に消費してるだけなんだろうか、これも調べる必要があるだろう、まだまだ課題は山積みである。
魔力に関する訓練以外にやる事を探そう、どのくらいで魔力が回復するかも分からない状態で呆けていても仕方ない。
次に試すのは動かそうとするとずれる俺の手足の感覚だ。
膝を抱えた状態、これが今の俺の基本形、この状態でいる限り両者の認識がずれる事はない、では脚を伸ばすとどうなるか、感覚では膝を抱えた状態のまま、途中から中身だけがずれて脚を伸ばした認識になる。
これはあれか?俺が自分の身体を人型だと思っているからこうなっているのか? 新しい身体が人型でないなら、人型としての認識ではダメだろう、魂が肉体に馴染むには時間がかかるだろうとヌシ様も言っていた、ならばこの仮説は正しい気がする。
手を伸ばす、やはり膝を抱えた状態のまま、中身がずれている、ただ身体、特にさっき魔力を意識した臍付近だけは感覚と認識がずれる事がない、魔力がある部分が自分の身体として自分の中でも完全に合致しているのだろう。
ふと視線をあげると手が届きそうな位置にいくつかの小さな光点が見えた、先ほどから見えている星のような物、小さな蛍程度の輝きしかないその光は瞬く事無く周囲に浮かんでいる、俺は無意識にその輝きのひとつへと手を伸ばしていた。
手が光に触れる、そう思ったとき、光は俺の手の中へと何の抵抗もなく吸い込まれ、消えた、同時にジワリと何かが身体中に広がる感覚、不快感はなく、むしろもっと感じたいとまで思う、初めての美味を味わったかのような全身を襲う快感。
― あの光は俺にとって必要な物だ ―
突如理解する、周囲にある光、あれを俺は摂り込まねばならない、なんとかして、なんとしてでも!
夢中になって手を伸ばす、さほど多くはないが手が届く範囲の光に手を伸ばし続ける、全て摂り込み終えるが身体はまだあの光を欲している、何とかしてもっと手に入れなければ。
気が付くと視界に変化が現れていた、見えていた光に様々な色が付き、個別の濃淡がよりはっきりとする、緑に黄色に青に赤、白に紫、更には判別の付かないほど淡い光、それぞれに濃淡を変えて周囲に浮かぶ。
あれらの光を何とか自分の物にしないといけない、更なる力を得る為に、新しい身体の認識だろう、あの光を摂り込むことが俺の成長に必要なのだと解る。
ならばやるしかない、少しでも早くそして多くあの光を手にする為に、自分の身体を上手く使いこなす為に、努力は惜しむなと言われている、その通りだ、やってやろうじゃないか。
未だ解らぬ転生後の姿
横道にそれて妙なことばかり覚える主人公だった。