プロローグ 4
プロローグは続かない
そして少し短かった
――― 暇そうだな
いきなり何を、ってまあ暇には違いないですね、なにせこうなる前は数十年の寿命で普段何かしてるのが当たり前、そうじゃないのは寝る時位でしたし。
日課、とも言えない、なにしろ時間がわからない、ただ全身を動かす訓練中、ヌシ様から声がかかる。
異界に浮かんでるだけの魂状態だと身体の動かし方すら忘れてしまいそうになる、肉体が無いから筋力の低下とかは無いとは思うが、なんとなく気持ちが悪い。
――― その身体では疲労も睡眠も関係ないが、ここには娯楽も無い、か、ふむ
こっちの記憶があるから休みの時どうしてたかなんて言わなくともばれてる、ええ、寝るかネットしてるかゲームしてるか本読んでましたよ?週一でもあれば御の字な休みなんてそんな物ですって。
疲労が無いから思いっきり身体を動かしたりしてみたんですが、魂なんですよね今の状態、ランニングしても景色が変わらないし、周りの靄も動いているから自分が動いているかもよく判らない。
――― 動いておらんな、我から見た限りでは
やっぱりか!その場足踏み状態でパタパタしてただけなのか、これ精神的に疲労がきそう。
――― ならばこういうのはどうだ
声と同時に俺の胸に赤黒い糸が繋がる、嫌な予感しかしませんがこのパターンはもしや?
――― 受け入れよ?
そこでなぜ疑問系、そしてやっぱりこのパターンですか!
胸にジワリとした冷たい感覚、そして全身に広がっていく体内に無数の棘が刺さって広がっていくような痛みと不快感。
――― 加減はしたつもりなのだがな、仕方ない、意識を手放すがいい
まともに声も出せず俺は意識を手放した。
――― ふむ、違和感は無いか?
その確認の言葉が物凄く不穏なんですが、何がどうなりました?
起き抜けに聞くと凄く不安になる言葉をかけられた気がする。
――― 違和感が無ければ問題ない、またレージが砕けたのでな、追加強化したまでの事
はぁ、気分は狂的科学信奉者に改造される被験者1号ですよ俺。
身体を動かす、特に違和感は感じない、よな?
――― 今回は随分と警戒しておるな
そりゃあまあ、眼覚めてすぐの確認が身体への違和感とか普通は警戒しますよ?
ストレッチ、かーらーの高速反復横跳び、おや?
――― 何をしておる
ああ、ヌシ様の視線が冷たい、ん?
何やら視線を感じるのですが?そして魂とはいえ以前より身体が軽い?
――― 気が付いたか、レージの能力を全体的に引き上げてみた
ヌシ様、すっごく今更な気がするんですけど、こういうのって普通肉体に施す物では?
――― その肉体が無いだろう?
そうなんですけどね。
―――
――― 肉体だけ強化しても中身が脆弱では無駄であろう、ならば今強化しておいても問題は無い
そんな物なんでしょうか、ここで強化されても俺魂のままですよね?
――― その通りだな、ということでレージに提案がある
ヌシ様から提案とはまた珍しい。
――― 簡単に言うならば近くを通りかかる飛沫の内部に行って見ないか、という誘いだ
――― 以前に発った飛沫なのでな、内部への干渉を殆どしておらぬ、だが内部に世界を構築しているのは間違いない
――― そこでレージに中へ降りて生きてもらいたい、そして中であったことを我に教えてほしい
それは俺がまたここにやってくるという事ですか?飛沫の中に降りるということは魂のままで?
――― そこは世界にあわせた身体を得るべく転生という形をとる事になる、だがレージの魂は転生しても変性する事はないだろう
――― 飛沫が役目を終えるその時でもレージの魂は飛沫や我に判別できるだろう、レージの記憶が無くなっていても我はレージの記憶を知るだろう
特に何かを成せとかではないのですね。
――― 他の飛沫に生まれ、我の一部を持つ存在よ、自由に生きよ、見聞を広めよ、汝は汝として世界を知るがいい、我は汝が記憶を持ち帰るのを楽しみに待つとしよう
わかりました、ではそのようにお願いします。
――― レージ、汝はまた意思ある存在として世界に生れ落ちる事になる、しばし眠るがいい
そして俺は久しぶりの睡魔に襲われ、そのまま闇の中へと意思を投げ出した。
――― またの邂逅を楽しみにしておるぞ
随分と眠った気がする、やはり久しぶりだったせいだろうか?
俺は両手で脚を抱きこんだ状態で丸まっている、そんな気はするんだが身体のどこも動かせない。
周囲は静かだ、転生して母の体内にいるというならもう少し音が聞こえてもいいはず。
しかし眠いな、頭も上手く働いてないしもう少し寝るとしよう。
次に眼が覚めればもう少し状況もわかるかもしれない。
おやすみなさい。
さらばヌシ様また逢う日まで