プロローグ 2
話が進んでない気がする?はははそんな莫迦な
――― 我ニ記憶ノ説明ヲ望ム
そう言われて自分の記憶の説明をはじめた、は良いものの、それはすぐに中断されることとなる。
何のことは無い、互いの知識、認識が違いすぎて話が通じないことが判明したのだ。
考えてみれば元の世界でも住んでる地域が違うだけで価値観やら言葉やら違うのはごく普通のことだった、ましてやココは異界とも言える場所で、相手は人ですらない、通じるほうがおかしいと言える。
どうしよう?素直に相談してみるか?
――― 我ト汝ノ知識ノ違イカ
うん、普通に気づかれたね、というかこっちの意識を読んだ?どっちでもいいか。
――― 受ケ入レヨ
言うが早いか何かが俺の感覚では胸に突き刺さる、魂のせいか痛みは無いが赤黒い糸のような物が俺に繋がっている、そこから何か冷たい物が流れ込んで、って待って!なんかこれ痛い!めっちゃ痛いんですけど!
体内にどろりとした氷水か何かを流し込まれる感覚、刺されている胸部分を中心として全身に広がっていく内部から身体を骨ごと捏ね繰り回すような痛み!
あぁあがががががががががが!!!!!
俺はまた意識を手放した。
――― すまぬ、互いの知識と認識を統合させる為に我の一部を送ったがまた耐え切れなかったようだ
へ?ドナタ様デスカ?
意識を取り戻した所に声をかけられた。
なんだかずいぶんと落ち着いた感じの女性の声が思念として聞こえてくる。
さっきまではイメージとして感じるだけだったのに声を感じる?しかも声に抑揚がついて凄く自然だ。
――― 我は我だ、汝の記憶と知識から最適と思われるイメージで擬似的に人格を形成し、汝に声として伝えている、我に性という概念は無く、したがって男性のイメージでも良かったが女性のほうが嬉しいのだろう?
ハイゴメンナサイ、そのとおりです。
ところで適合させた、ってさっきのあれはなんだったんです?一部を送ったと聞こえましたが。
――― 汝の記憶を元にすりあわせをした我の知識と認識を断片に持たせ、汝と同化させた、汝の記憶は再生している間に我の中に保存が完了している、これで我と汝の知識差は埋まるだろう
――― そして汝に詫びておかねばならぬ、いきなり思念を飛ばし魂を砕いた、汝の認識ではあまり良くない行為だったらしいのでな
あー、気にしないでくださいな?
あまり良くない行為、というか出会いがしらに魂砕くとか聞いた事無いですけど、初めて他の意思を持つ魂と出遭ったのなら加減わからなくても仕方ないでしょう。
まさか声をかけたら相手が死ぬとか普通考えませんし。
統合された知識と認識が教えてくれる、ほんとに軽く声をかけたつもりの思念の強度だった、だが剝き出しのままの人の魂ではおそらくこの我さんの囁き程度の思念でも大瀑布に裸で飛び込むようなものだろう、無論防御など出来るはずも無い、俺よくまだ存在できてるな?
――― 汝があまりにも小さいので加減が面倒ではあったが、器を大きくして我の一部と同化させたあと強化を施し汝の魂として定着させたのでな
声と同時に顕微鏡に映る小さな玉がはじけとび、それをデフォルメされた俺が箒で掃き集めて粉と練り合わせ、こねこねして丸める、玉に向かってむ~んと唸る俺、弾け飛ぶ玉、また集めて追加の粉を足して捏ねて丸める、ここまでを何度か繰り返す、バスケットボールサイズになる、最後にシールを貼って完成!
そんな映像イメージが俺に届く、ご丁寧にクレヨンで描いたような四頭身サイズにデフォルメされた俺が白衣を着てバンザイしている、ってなんかイメージひどくないですかね!?しかも え:われ ってノリノリですよね!
――― 先ほどの我の受け入れでまた砕けたのでな、再生してる間に今度は少し余裕を持って強化を施しておいた
顕微鏡サイズがバスケットボールサイズってそれもう俺が別物になってませんか?
――― 追加した部分に意思は持たせておらぬし、核は汝の魂の構成を濃くしている、全て汝の魂として統合するだろう、何も問題はない
いやありがたいんです、ありがたいのは間違いないんです、間違いはないんですが、どうしてココまでしてくれるんです?
貴方から見れば俺なんてそれこそ極小の取るに足らない存在だと思いますが。
――― 我はそれぞれの飛沫の我が知った事しか知らぬ、飛沫の我は汝のように飛沫内部に発生した存在には関心を持たぬ
――― それ故飛沫内部に独自の意思を持つ存在が在るなど我は知らなんだ
――― 我は無知、無知故に知るを好む、未知なることを既知とする事を好む、故に汝の知を欲した
――― だが接触した汝はあまりにも脆弱、ならば頑強にすればよい
なるほど、つまりはこうして話を聞く為、その為だけにここまで俺を強化したと。
未知を既知に、この欲求はなんとなくだが判る気がする、ゲームなんかで新しいフィールドに行ったとき情報集めにワクワクした物だし、雑学好きな人とか実際貪欲にいろんな知識を集めたりする、俺もネットや図書館でいろいろと見たり読んだりは好きだった。
この我さんは知りたがりで、今他の意志を持つ存在に出会って好奇心や探究心といったものが燃え上がっているのだ、そのために人格形成まで行って俺に話しかけてるんだろう。
とはいえ、こんなただの元サラリーマンの知識なんて知れたものなんだけどな。
知識量がそんなに多くないなんてのは記憶をとりこんだ段階でとっくに判ってることだろうし、知りたがってるのはもっと違う事なのだろう。
何はともあれ、これで説明するのも大分簡単になった、共通認識の他にイメージを直接伝えてこんな感じ、というのが使えるのは実に便利だ。
説明タイムを再開するとしよう。
我さんは知りたがり
次回やっと主人公っぽい俺の説明予定