何言ってるんだよ!!
「ワシは誰にも会わんように気をつけとったが、まったく外に出ない訳にもいかん。ある時じゃ。偶然、朋子の姿を見かけた。分不相応な車に乗って、物を持っとったけぇ、おかしい思うたんよ。それで、ワシはあの子を問い詰めた……」
その結果、今、話したことを聞いたのだ、と答えがあった。
「大変興味深いお話を聞かせていただきました」
賢司はそう言った。
「ですが。今の話がすべて作り話ではないと、証明できるんですか?」
元教師が気色ばむ。
「あんた……ワシが嘘を言うとると……?」
「嘘な訳ないだろ?!」
そう叫んだのは、周だった。
「自分の娘が犯罪者だったなんて、そんな作り話を他人にする人間がどこにいるっていうんだよ!!」
その通りだ。
美咲も元担任教師がそんなことで嘘を話すなんて、とても思えない。
「その坊主の言うとおりじゃ」
ずっと黙っていた八塚が口を開いた。「そもそも……朋子は……」
「八塚、ええんじゃ。ワシから話すけぇ」
彼女は八塚を手で制し、お茶を一口飲む。
「……今じゃから打ち明けるが、朋子はワシの姪なんじゃ」
「え……?」
「あれは、ワシの妹が道ならぬ恋に落ちて産んだ娘じゃ。産まれてすぐ施設に引き取られてのぅ。その後は里親が見つかって、山陰の方に引き取られていったんじゃが……その後すぐに夫婦の間に実子が生まれたんよ。その後、あの子がどういう人生を歩んだか……想像に難くないじゃろう」
誰も一言も口をきかなかった。
美咲はなんとなく気になったので、ちらりと賢司の横顔を見た。もともと最近は顔色が良くないが、さらに白くなってしまったような気がする。
「じゃけんって、同情して欲しいとか、情状酌量してやって欲しいなんて言わん。罪は罪じゃけんな。あの子は自分が養子だったことを中学の時に知って、それから高校を卒業した後に……実の親がどうやら宮島におるらしいって聞いて、こっちに来たんよ。妹はその頃既に亡くなっていてのぅ……親子の対面はかなわなんだ」
ちなみに、と話は続く。
「朋子は真弓から、横領の手口を聞いとったんじゃ。あれは……ロクに欲しいものも親に買ってもらえんかったけぇって、物欲の強い人間に育ったんよ」
それから彼女は古めかしい戸棚から、2冊の通帳を取り出した。
「なんとかして貯めた資金じゃ。焼け石に水かもしれんが……これを使うて欲しい」
1000万入っとる、と彼女は言った。
「ワシはもう、先のない身じゃ。金は墓場に持って行けんからのぅ」
「先生……」
卓袱台の上に置かれた通帳に、美咲は手をつけようとはしなかった。
それから元教師は呟く。
「思えば、あの子も哀れな人生じゃった……」