アタシ、脱いでもすごいのよ?
部屋に戻ると、先に戻ったはずの和泉の姿が見えない。
「うさこ、彰彦はいないのか?」
「よくわかりませんが、さっき廿日市南署から緊急事態があったという連絡があって、飛び出していきました」
「廿日市南署……?」
「最初は高岡警部に、って言われたんですけど……」
嫌な予感がした。
聡介は廿日市南署の番号をダイヤルしようとした。
その時だ。
「やだぁ、何よこの狭い部屋!」
……?
声はどう聞いても男だが、口調はどう聞いても女性だ。
「よくこんな、犬小屋みたいなところで仕事してるわね?」
聡介は手を止め、声のした方を見た。
入り口のところに立っていたのは、見覚えのある顔である。
つい先日の事件の時に、力を貸してくれた特殊捜査班の隊長。
確か名前は……。
いや待て、あの時はごく普通にしゃべっていたはずだぞ?
「あら、こんにちは」
こちらに気付いた相手は微笑みながら近づいてくる。
明るい栗色の髪は警察官のくせにかなり長い。背が高く、服の上からでも、がっしりとした立派な体つきなのがわかる。
当たり前だが、特殊部隊だからといって普段から防弾チョッキやヘルメットをしている訳ではなく、平時は制服で出勤するようだ。
「あなたが捜査1課強行犯係の責任者でしょ? 前にも一度会ったけど、改めてよろしくね」
聡介は立ち上がり、名刺を取り出して差し出す。
「高岡と申します」
「よろしくね、聡ちゃん」
「……はい?」
「アタシは捜査1課特殊捜査班HRT隊長、北条雪村よ。遠慮なくユッキーって呼んでね? ちなみに今はアタシ一人なの。他にむさ苦しい部下が5人ほどいるんだけど、また後日改めて挨拶させるわ」
ニコニコと微笑むその顔立ちは、整っていて精悍なのだが……。
それから彼はぐるりと部屋全体を見回すと、
「あら、彰ちゃんはいないの?」
「アキちゃん……?」
「和泉彰彦よ。捜査1課にいるんでしょ? 今は」
そう言えば、和泉とは確か知り合い同士だったはずだ。ちらっと聞いた。
「和泉は今、外出中です」
「なんだ、つまんないわね。あら……」
彼はうさこの方に歩いて行く。
「可愛らしい女性の刑事さん。よろしくね~」
うさこは戸惑いを隠しきれない表情で、それでも握手に応じている。
それから、今度は駿河で視線を止めた。
「聡ちゃん、こちらの彼もあなたの部下?」
「そうです……が、ちょっと待ってください!!」
特殊部隊の隊長は駿河の後ろに回り込むと、ものすごくいやらしい手つきで彼の胸元や腰の辺りを触り始めた。
駿河はかつてない表情で困惑している。
「うーん、着痩せするタイプなのね。大胸筋も上腕二頭筋もいい感じ。ねぇ、ちょっと脱いで見せて?」
「やめてください!!」思わず聡介は叫んだ。
「ねぇあなた、うちのチームに入らない? きっとエースになれるわよ」
部屋にいた全員が呆然としている。
「いえ、あの、自分は今後も強行犯係で……」
「よく考えておいてね?」
それから彼は、品定めをするかのように友永と日下部を見比べた。
今度は何を言い出すのかと思ったら、特にコメントすることは思いつかなかったらしい。
「じゃ、そういうことで。明日からよろしくね~」
そして、台風は去って行った。