ホントはガラじゃねぇんだけどな
友永は支倉という男に私怨があった。
7年前、身に覚えのない恐喝事件の犯人に仕立てあげられ、妻子と別れる羽目になったあの時、週刊紙にネタを売ったのも、偽造写真を作ったのも、すべてあの男の仕業だと確信しているからだ。
物証はないが、自分で調べたいろいろな状況証拠から言って間違いない。
元々支倉という人物は、生活安全課少年係にとって宿敵というべき男だった。
家出をしてきた少年少女に甘い言葉で巧みに近付き、流川や近隣の風俗店に従業員として売り飛ばす。もちろん非合法の店である。
何人か友永もそういった子供達を助け出したことがあるが、中にはそうできなかった子もいる。
この男を見ると、途端に冷静でいられなくなる自分がいる。
今日はまだマシな方だったと言えるだろう。
一つ大きな息をついて、どうにか気持ちを整える。
「ねぇ……」
後ろに隠れていた仲居が声をかけてきた。改めて向き合ってみると、年齢の割には肌艶も良く、体型も整っていた。
「あんた、ヤクザに追われるような何をやったんだ? 闇金にでも手を出したのか?」
仲居はくすっと笑った。
つい先ほどまでチンピラに絡まれていたとは思えないほど、怯えた様子もなければ、いたって平静な状態を保っているように見える。
「……そういうことにしておいて。ねぇ、それより……」
彼女の視線は友永の着ているジャケットの襟に注がれているようだった。
「とりあえず、お礼を言うわ。ところでそのバッジ……捜査1課でしょう?」
驚いた。
確かに県警捜査1課に勤務する警察官達は皆、そこに所属しているという証しとなるバッジをいつも身に着けている。
しかし、そんなことを知っているのはよほどの警察マニアか、現職の人間、もしくは退職者ぐらいだ。
「あんたはいったい……?」
「私は服部貴代。白鴎館で仲居をしているわ」
白鴎館とはおそらく旅館の名前だろう。
「助けてもらったお礼にいいこと教えてあげる。あの旅館、裏でいろいろ悪さしてるわよ。なんたって今の社長……若旦那は……」
言いかけて仲居は口を噤んだ。
「なんだよ?!」
少し離れた場所に、和服を着た男が歩いている。もしや噂の主だろうか。
「……悪いけど、これ以上は言えない」
「なんだそれ、言いかけておいて……」
「詳しいことは【御柳亭】の節子に聞いて! それじゃ!!」
仲居はパタパタと走り去ってしまった。




