うちの隊長は、とにかくレディーファーストにうるさいんです
なんで班長ったら、あんなことを聞いたのかしら?
結衣は溜め息をついた。
ふと、手にしたコンビニの袋を見て思う。
これからはお弁当を持参して、女子力アピールした方がいいのかしら?
結衣だってまったく料理ができない訳ではない。時間がないだけで。
再び、溜め息。
そして。俯いて歩いていたら、曲がり角で人にぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい!!」
「お怪我はありませんか? お嬢さん」
驚いて結衣が顔を挙げると、見事なマッスル体型の男性が、白い歯を光らせ笑顔を見せていた。
え? 何、誰?
一応、制服を着ているから県警の職員には違いないだろうが。
「失礼いたしました。もしよろしければ、お荷物をお持ちいたします」
「い、いえ、あの、すぐそこですから!!」
では失礼、と男性は去っていく。
彼は1人ではなく5人の連れがいた。全員、揃って立派な体格をしている。
さらに彼らは動きに統一が取れていて、まるで軍隊のように足を揃えて行進しているようにも見えた。
一番後ろにいた背の高い男性だけが、ちょっと異なっていたけれど。
明るめの長い髪をうなじで一つに束ねていて、群青色の制服がよく似合っている。
彼らが歩くと、紅海の水が2つに割れるかのように、ざっと人波が分かれる。
なんだろう?
そして。集団の一番後ろを歩いていた、背の高い男性に結衣はなんとなく見覚えがあった。
近くにいた事務員の女性が、ヒソヒソと連れの女性に話しかけるのが聞こえた。
「ねぇ、今の何?」
「あれじゃない、特殊捜査班」
「ああ、あのSATとかSITとか……」
「そうそう。何でも隊長がアメリカに研修で行ってて、最近帰国したんだって」
へぇ……そうだったんだ。
それから結衣が刑事部屋に戻ると誰もいなかった。
自分の席に座ろうと椅子を引きかけたが、なぜかやたらに重い。
どこかに引っかかっているのだろうか? 力任せに引っ張ろうと背もたれをつかんだら、そのままにしといて!! と、なぜか机の下から声がした。
結衣が屈みこんで下をのぞくと、なぜか和泉が身体を小さく丸め、震えている。
「な、な、何やってるんですか?!」
「見つからないようにしてるんだから、黙ってて!!」
いい歳こいた中年が、職場でかくれんぼ?
あきれた……。
仕方ない。結衣は部屋の隅にある応接セットのソファに腰を下ろした。
結衣の席の外線電話が鳴る。
「和泉さん、電話とってくださいよ」
「やだ!」
……イラっとしたのをなんとかこらえ、結衣は立ち上がって受話器を持ち上げる。
『あの、廿日市南署の者ですが高岡警部は……?』
「今、お昼休憩で離席しています。折り返しましょうか?」
『では、和泉さんは?』
ここにいますよ、と言いたいのを我慢して結衣は、
「離席しています」
『緊急事態ですので、なるべく早くご連絡いただけるよう、伝えてもらえますか?』
相手の口調にはただならぬ雰囲気がこもっていた。
何があったのだろう。
すると。
ぬっ、といきなり和泉が立ち上がり、受話器を取る。かつてない近さで触れ合いそうになり、思わずドキっとしてしまう。
「和泉です。はい……え? ……」
みるみるうちに和泉の顔から血の気が引く。
「すぐに行きます!!」
彼は不躾にも受話器をガチャン!! と叩きつけ、椅子にかけていたコートを手に、ものすごい勢いで部屋を出ていく。
彼と入れ替わりのように、班長が帰ってきた。