本人に言ったら怒るだろうなぁ
翌朝、始発のフェリーに乗って周は市民病院への道を急いだ。
風邪を引いた時に嫌々かかるのは安芸総合病院なので、実に初めて行く場所だ。
和泉の身に何があったのだろうか。
少し不安に思いながら廊下を歩いていた時だ。
「……周君?」
「高岡さん……」
「そうか、君も来てくれたのか」
「昨日の夜、女将さんから聞いて……和泉さんに何があったんですか?」
彼はよくわからない、というふうに首を横に振った。
「とにかく、来てくれてありがとう」
病室に入ると和泉は眠っていた。
起こさない方がいい。
外に出ようか、と言われて周も素直に従った。
病室の並ぶ廊下の突き当たりに、ちょっとした休憩スペースがある。隣家の刑事は周に紙コップのコーヒーをご馳走してくれた。
「もしかして、働き過ぎ……ですか?」
熱いコーヒーに息を吹きかけながら、周は訊ねた。
「そんなところだろう。もう若くないくせに、若い頃と同じように動こうとするからだ。あれもこれもって、気になることがあるとあちこちに手を出す、悪いクセだな」
ふと周には思い出したことがあった。
「そういえば、前にも似たようなこと、ありましたよね」
「そうだったか?」
「和泉さんが、具合悪くなって途中で帰ってきたけど、家の鍵がないからって、家で預かったこと……」
すると彼は申し訳なさそうな表情をした。
「ああ、その節は……申し訳なかったね」
「いえ。和泉さんて、意外とデリケートなんですね」
正直言って、殺しても死なないタイプだと思っていた。
笑って同意されるかと思いきや、和泉の父親は首を横に振る。
「俺には未だに、わからないことがある。時々なんだが、彰彦は何かを異様に恐れているような気がする。それが何かわかれば、手の打ちようもあるだろうに……」
寂しそうな表情だった。
あんなに親しくしていて、長い付き合いなのに?
そうして周にはふと思い出したことがあった。
「もしかしたら……和泉さんが、前に言ってました。信じていた人に裏切られたことがある、って」
「え……?」
「高岡さんがそんなことするわけないと思うけど、ひょっとして……」
彼は悲しそうに呟いた。
「バカだな、なんで……」
周は紙コップをテーブルの上に置いた。
「実はうちの兄が和泉さんのこと、強いようで脆くて、すごく不安定な人だって言ってました。確かにそうかも……って」
「賢司さんが……?」
「不安なんですよ、きっと。高岡さんがどれだけ優しくても、もしかしたら前みたいにって……」
そうかもしれないな、と彼は溜め息をついた。
「でも、信じろって口で言ってもダメですよね。信頼って1つずつ積み上げていく、石垣みたいなものかな……」
周はそう口にしてみてから、もしかして失敗したかと後悔した。
「あ、生意気言ってごめんなさい!」
「いや、君の言う通りだ」
ほんとかな? 本当だと信じよう。
「俺……じゃない、僕の見たところだと、高岡さんと和泉さんの絆は、堅固なお城みたいになってると思います」
羨ましいと思えるほどに。