表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/175

お願いだから、何も訊かないでください。

 おそらく、自分の悲鳴で目が覚めた。


挿絵(By みてみん)

 びっしょりと全身が汗で湿っている。


 ……ここはどこだ?


 半身を起こした和泉は、自分が見知らぬ部屋に寝かされていたことに気付いた。


 もしかして病院?

 いったい何があったというのだろう。


 和泉は記憶を辿ってみた。


 朝の早い時間、連絡があった。廿日市南署の警官からだ。


 とうとう米島朋子が息を引き取った……と。


 病院へ急いだ。夢中で走ったことを覚えている。


 死なせてたまるか。

 きちんとした裁きを受けさせ、土下座をさせて謝罪させるまでは。


 簡単に死ぬ権利なんてない。

 ずっと頭の中でそのことばかりを繰り返していた。


 もう手遅れだなんてことは、考えられなかった。


 だけど。

 遺体を確認してからすぐ、和泉は刑事としてしなくてはいけないことを思い出し、そちらに集中することにした。


 それは現在進行形の殺人事件の捜査ではなく、米島朋子が起こした殺人未遂事件及び、傷害事件について、である。


 和泉は尾道へ向かった。


 不本意ではあるが、今回の件は【被疑者死亡のまま書類送検】という形になる。その送検する書類を作成するため、被害者である優作から再度、詳細を事情聴取しなければならない。


 そしてまた、あの旅館の松尾という専務にも。


 仕事をしている間は他のことを考えなくて済んだ。


 ただ。


 被害者である夫に付き添い、時折心配そうにこちらを見る聡介の娘の視線が、正直言ってうっとおしかった。

 親子なんだから当たり前だが、よく似ている。


 顔立ちもそうだが、無言の内にこちらの内面まで見透かそうとするかのような瞳が。


 ただの興味本位でも、下世話な好奇心でもない。


 ひたすらこちらを案じている。それだけだ。どうしてあんな人に出会ったりしたんだろう?


 誰もみんな、自分のことだけ考えて、自分のためだけに行動するのが当たり前なのに。


 どうして、他人のことなんか気にするんだ。


 尾道からどうやってこちらに戻ったのか、正直言ってよく覚えていない。


 高速道路のインターを降りて、一般道を走り始めた時だ。

 恐らく捜査本部は宇品東署に設置される。最初の捜査会議にどうにか間に合うように帰ればいいから、一度宮島に戻ろう。


 何も告げず、ほったらかしにされたうさこはきっと、怒っているだろう。


 そうだ、聡介に連絡をしておかないと。


 和泉はいったん車を路肩に止め、携帯電話を取り出した。


 先回の事件の折りのように、捜査から外れろとか加われとか、気まぐれみたいなことを言われない内に……なんとか両立できるように。


 そう思ってダイヤルした時だ。


 急に胸が苦しくなった。


 まさか、何か大きな病気だろうかと不安になってしまう。

 そんな訳はない。生活が不規則は不規則だが、それなりに健康には気を遣っている。


 健康診断だってサボっていない。というより、強制的に受診されられるのだが。毎年数値の上では異常がない。


 段々と気が遠くなっていく。


 気がつけば、交通課の隊員に車の窓ガラスを叩かれていた。

「ここは駐禁じゃけんね。停車つったって、ほどがあるっちゅうもんじゃ」


 何分ぐらい止まっていたのだろうか?


 すみません、と答えて和泉はギアをドライブに入れようとした。

 力が入らない。


「お兄さん、何しょうるんね?」


 ブレーキペダルも踏んでいるはずなのに、ギアが動かない。


 このまま運転したら事故を起こす。


 そう判断した和泉は思い切って身分を明かし、誰かに車を取りにきてもらう手筈を取ることにした。


 だが……。

 携帯電話が手から滑り落ちた。


 その後のことは覚えていない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ